◆ レオナルド・ダ・ヴィンチの師匠は誰?
前回は、レオナルド・ダ・ヴィンチの7種類の先生「自由人編」についてご紹介しました。
今回は続編の「名人編」です。
あなたは「名人」と呼ばれる人に出会ったことはありますか?
名人の意味をデジタル大辞泉で調べてみると、「技芸にすぐれている人。また、その分野で評判の高い人」とあります。また囲碁や将棋の最高位者に与えられる称号としてもよく使われます。
レオナルド・ダ・ヴィンチは14歳で、フィレンツェにある工房に入門したと言われています。その工房の経営者は、アンドレア・デル・ヴェロッキオという人物です。
本名は、アンドレア・ディ・ミケーレ・ディ・フランチェスコ・チオーニという名前ですが、ヴェロッキオは「本物の目」という意味を持つニックネーム。
フィレンツェ生まれのヴェロッキオは、大きな2つの工房のうちの1つを経営しており、芸術家を目指す才能ある若者が集って来ていました。
後に有名な画家となるギルランダイオやペルジーノもヴェロッキオ工房に在籍していましたが、ギルランダイオの弟子の1人がミケランジェロ。ペルジーノの弟子にはラファエロがいたので、直接の弟子であるダ・ヴィンチを含むルネサンス三大巨匠の源泉はヴェロッキオだったということになります。
ヴェロッキオは優れたアートの腕前に加えて、才能のある人物を見抜き、育成することに長けた名人でした。実際に、ラファエロの父である、ジョヴァンニ・サンティは、ヴェロッキオのことを『稀代の良師』と讃えたと言われています。本当の名人とは、一流の技術を持ちながら、人の才能を引き出して最良の方向に導くことができる人なのかもしれません。
◆ 名人が査定をして、弟子の才能が伸びる
私がよく見る毎週木曜夜7時から放送されているテレビ番組に、『プレバト!!』(MBS/TBS系)があります。元々の番組名は、『使える芸能人は誰だ!? プレッシャーバトル!!』というタイトルで、芸能人の才能査定ランキングが行われます。査定部門は、俳句、水彩画、スプレーアート、消しゴムはんこ、バナナアートなど多彩なジャンルで、挑戦する芸能人も毎回変わり、意外な才能を垣間見ることができます。
特に盛り上がっている部門が俳句で、「挑戦者」からスタートし、先生に「いい俳句!」と高評価査定をされると「特待生」に昇格し、さらに良い実績を積み重ねると「名人」に昇格。「特待生」や「名人」に昇格しても、よくない評価を受けると降格するシステムになっています。名人も10段まで段階があり、さらに5つのハードルをクリアすると最高位の「永世名人」という称号を手にすることができ、現在、梅沢富美男さんをはじめ複数人が「永世名人」の頂点に君臨しています。
名人にもなると、俳句の良し悪しのポイントが一目瞭然で分かるようになるのですが、素人の私が見てもどこがポイントなのかがよくわかりません。それほど名人と素人には明らかな差があるのです。
ちなみに個人的に一番驚いたのは、色鉛筆部門の先生である三上詩絵さんが、物体の立体表現をする際に、黒を使わず、代わりに青色の色鉛筆で影を表現していたことです。青でまず色を塗ってから別の色を重ねることでより立体的に見えるとのことで、黒で影をつけるよりも自然な見た目で、まるで写真のような出来栄えでした。
このことからも、物事を最短で極めるには、名人から習うのが近道だということがわかります。レオナルド・ダ・ヴィンチが500年経過した今なお世界的な画家として認められている根源には、修行時代に名人に学んでいたことも欠かせない要因です。
◆ 師匠を超えられない弟子は哀れである
「師匠を超えられない弟子は哀れである」
ダ・ヴィンチは、ノートにこんな言葉を残していました。
この言葉にはどのような意味が込められているのか、考察してみたいと思います。
師匠のヴェロッキオが手がけた絵画や彫刻作品は未だに残っていて、イタリアの美術館に行けば実物を見ることができます。ウフィッツィ美術館にある『キリストの洗礼』という作品がありますが、この作品はヴェロッキオ単独ではなく、工房内で手分けして製作された作品と言われています。
『キリストの洗礼』 ヴェロッキオ他 ウフィッツィ美術館
弟子のダ・ヴィンチも携わっていたという説があり、特に左側の天使を描いたと言われています。そして、右側の天使より高く描写力を評価されています。なぜそう言えるかというと、体の向きと顔の向きが異なる難しい構図にもかかわらず違和感なく描かれており、さらにカールしている髪の毛1本1本が緻密に描かれているなど、繊細な表現が光っているからです。さらに、遠景にうっすらと霞む風景もダ・ヴィンチが描いていたと指摘されており、左側に描かれている作り物のような樹木と比べると、リアルな表現力の違いが分かります。
あまりに弟子の描写力が優れていたために、ヴェロッキオは以降筆をとることをやめて、得意の彫刻に専念するようになったと伝えられています。師匠を弟子が超えた瞬間がこの絵には表現されているのです。
師匠を超えたダ・ヴィンチにとって、きっと自分の弟子たちも力量を磨いて自分を超えていってほしいという願いがあったのでしょう。
「師匠を超えられない弟子は哀れである」
には、そんな想いが託されているような気がします。
偉大な先生で出会うと、とても自分には超えられない気がしてきます。しかし、先生が試行錯誤して時間をかけて編み出した方法をすぐに教えてもらえるのであれば、その分自分は時間を短縮して良いものを生み出すことができます。技術も指導力も兼ね備えた名人に出会って、自分を最短で進化させていきましょう!
次回はレオナルド・ダ・ヴィンチの7種類の先生「ロールモデル編」です。お楽しみに!