私の人生を変えたダ・ヴィンチ(後編)

ダ・ヴィンチ研究者の桜川Daヴィんちです。
第1回目の投稿では、私の学生時代での研究内容や就活体験、そして、ルーヴル美術館で“ある絵画”と邂逅を果たす瞬間までを書いていました。その絵は美術の教科書でも見た記憶がなく、今まで見たことのない人物画でした。絵に近づいて作者を確認してみると、その名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。

はて、こんなダ・ヴィンチの絵画なんてあったかな?
そう思うほど見覚えがない絵画だったのですが、ルーヴル美術館に所蔵されているということは、それなに価値がある絵画だと思われます。

絵のタイトルは『バッカス』。
ギリシャ神話に出てくるお酒の神様です。ルーヴル美術館は、「シュリー翼」、「リシュリー翼」、「ドノン翼」と名づけられた3つの宮殿によってコの字型に構成されています。

世界一有名な名画の『モナ・リザ』は、ルーヴル美術館2階ドノン翼の「国家の間」に飾られています。『モナ・リザ』は以前盗難にあったことから、木製の柵と防弾ガラスで守られており、一目見るためには長蛇の列に並ぶ必要があります。列ができていると写真を撮る時間くらいの数十秒しかないので、ゆっくり鑑賞するには、朝一か、団体客がいない閉館前に訪れるのがおすすめです。

『モナ・リザ』がある「国家の間」2020年 筆者撮影

さて、話を『バッカス』に戻しましょう。
ドノン翼には、全長450メートルもの長いグランド・ギャラリーと呼ばれる回廊があります。

『バッカス』はそのグランド・ギャラリーに飾られていました。私がその長い回廊で強烈に印象に残ったのは、ただ『バッカス』だけでした。

それがこの絵です。

『バッカス』 2020年 筆者撮影

『バッカス』に私が惹きつけられたのは、その独特なポーズにあります。
右手はナナメ上を指し、左手は下を指しています。足を組んで座る姿勢もなんだか妙な感じがします。さらに、この人物の目線は、まっすぐ正面、射抜くような鋭い眼力で鑑賞者を凝視しています。

「この絵はきっと“重大な何か”を見る人に伝えようとしている」


そう感じました。そして、それはダ・ヴィンチからの暗号メッセージであり、私がその謎を読み解くよう宿題を出されたかのように感じたのです。

「アメリカ人小説家の『ダ・ヴィンチ・コード』という作品が世界中で話題になりましたが、それとはまた別の暗号メッセージがあるのかもしれない」
よく考えてみるとこれは不思議なことです。ダ・ヴィンチ没後500年の時を越えて、イタリア人でもない日本人の私がそのメッセージを受け取ったのですから。

私は旅行から帰国後、早速ダ・ヴィンチについて調査を開始しました。すると、調べれば調べるほど、面白いことがどんどん見つかっていきました。

『バッカス』についての資料はあまり多くはありませんでしたが、1つ不思議なことがありました。それは何かというと、実は絵のタイトルがもう1つあり、『荒野の洗礼者ヨハネ』という別名がつけられているということです。

「同じ絵に、タイトルが2つある!?」


ちょっと違うタイトルなら分かりますが、洗礼者ヨハネはキリスト教の聖人であり、バッカスはギリシャ神話の神様で、まったくの別人です。異なるタイトルが同時に存在するのには、2つの説があります。

1つ目は、最初『荒野の洗礼者ヨハネ』だったが、後世に何者かが『バッカス』に描き変えたというもの。


2つ目は、最初からダ・ヴィンチが『荒野の洗礼者ヨハネ』と『バッカス』の二重性を意識し、両方を構想して描いたのではないかという説です。

そもそも、この絵自体、作者がレオナルド・ダ・ヴィンチと確定しておらず、ダ・ヴィンチ工房の弟子との共作だった可能性が指摘されており、謎が多い作品です。いずれにしろ、ダ・ヴィンチが関わっていたことは間違いなく、この絵には何かしらの意図があったと考えています。

このような絵に秘められた深み、そして、絵画だけではなく、万能の天才として知られるダ・ヴィンチ自身の深みは、研究するに値する内容だと感じました。それから会社員と並行し、独学で研究をスタートさせました。奇しくも、大学院生活を終え、新社会人になる直前での出来事でした。

ルーヴル美術館に行っていなければ、私はダ・ヴィンチ研究者にはなっていません。いや、もっとさかのぼると、暗闇の長いトンネルを走り続けた就活を経験していなければ、やはりダ・ヴィンチ研究者にはなっていなかったのかもしれません。


一見、これまでの経験がまるでバラバラで、つながりがないように見えても、ひょんなことから人生をかけて取り組むことにつながることがあります。一生懸命模索し手当たり次第行動する中で、予期せぬことに遭遇するのが人生だと、この時実感しました。

1人で黙々と研究していても独りよがりになってしまうので、ある程度、研究が進んだ段階で「ダ・ヴィンチ勉強会」を立ち上げ、カフェの貸切ルームを借りてセミナーを開催していきました。

そして、2019年には『超訳ダ・ヴィンチ・ノート』(飛鳥新社)を出版することができ、翌年2020年には韓国でも翻訳版が出版されました。本という形になったのは、研究を始めてから8年以上も後のことです。

人は、何か夢中になれるものを見つけられると人生が輝きだします。
この文章をお読み頂いているあなたにも、情熱を持てるものがあるかもしれませんし、たとえ今なくても、私のようにふと遭遇することもあります。ゆっくりと焦らず、それを大事に育んで頂きたいと思います。

引き続き、「ダ・ヴィンチ思考を通して見える世界、より豊かに人生を過ごす知恵」について共有していければと思っています。別の文章もお読み頂けましたら幸いです。それでは、またお会いしましょう。

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旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2021年 3月 公式掲載原稿 
現:挑戦者たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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