新海誠は現代のダ・ヴィンチ? 大ヒット作品に学ぶ伝え方の魔法

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もしダ・ヴィンチが今生きていたら・・・

ルネサンスの万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが、もし今の時代に生きていたら一体何をしていると思いますか?

以前、ダ・ヴィンチ研究者である私に対して、このような質問を受けたことがあります。

ダ・ヴィンチは実に多彩な活動をしていたので、きっと現代でも1つの枠におさまらないマルチな仕事をこなしていると思います。

あえて、1つだけに絞るのであれば、
最高のアートは絵画だと主張していたのがダ・ヴィンチなので、視覚芸術に関わること、現代なら映画監督がぴったりな職業の気がします。膨大なスケッチをノートに残していることからも、実写よりもアニメ映画を好むかもしれません。

最近でいえば、新海誠監督が興行収入100億円を超えるメガヒット作品を生み出していますが、ダ・ヴィンチ研究をしている私からすると、新海監督はまさにダ・ヴィンチ的な存在に映ります。

今回の記事では、大ヒットを生み出した新海作品をダ・ヴィンチ思考的に読み解いてみたいと思います。

前代未聞の販促手法

私は個人的に新海監督の作品が好きで、『君の名は。』、『天気の子』、『すずめの戸締まり』は、いずれも劇場に足を運んでいます。RADWIMPSが手がける音楽も好きで、サントラCDも購入しています。「君の名は。カフェ」がオープンした時もスイーツを食べに行きました。こちらがその時の写真です。


すずめの戸締まりカフェも期間限定でオープンしていますので、ご興味のある方はぜひ行ってみてください

https://suzume.theme-cafe.jp/

『すずめの戸締まり』は、これまでの『君の名は。』、『天気の子』とは異なる画期的な販促が行われています。それは何かというと、劇場に足を運んだ人だけが手にすることができる特典です。しかも、劇場に行くタイミングによって特典内容が変わるので、特典欲しさに何度も見に行くコアなファンもいるでしょう。

その特典とは、第一弾が『新海誠本』第二弾は『新海誠本2』。そして、第三弾は、『小説すずめの戸締まり〜環さんものがたり〜』です。


『新海誠本』は、『すずめの戸締まり』の企画書と新海監督のインタビューについて。『新海誠本2』は、主人公の声優をつとめた2人と音楽を手がけたRADWIMPS野田洋次郎さんの視点とコメントが中心にまとめられいます。

第三弾の『小説すずめの戸締まり〜環さんものがたり〜』は、映画に登場する環という女性のスピンオフ小説で、新海監督が小説版の『すずめの戸締まり』とは別に書き下ろしたものです。映画では語られなかった環さんの知られざる心情を知ることができ、より作品を深く味わうことができます。

実は、『君の名は。』でもスピンオフ小説のようなものが出版されています。これは特典ではなく、また新海監督が書いた小説でもありません。

映画制作に参加した加納新太さんという方が書いた“Another Side:Earthbound”というサブタイトルがついた 別の角度から見た『君の名は。』ストーリーです。こちらも映画や新海監督の小説を読んでから触れてみると、より作品を楽しむことができておすすめです。


今回は特典という形で短編小説がプレゼントされるというサプライズがあり、これをもらいに劇場に足を運んだ人も多いのではないでしょうか。興行収入100億円を超え続けるために考えられた鑑賞者視点の優れた販促手法だと感じます。

このような今まで誰もやらなかったサプライズをするところも、舞台演出で聴衆をもてなし、サプライズを趣味のように楽しんでいたダ・ヴィンチに通ずるものを感じます。

新海作品の根底には、災害への問題意識がある

さて、少し踏み込んで具体的な内容に入っていきたいと思います。

大ヒットを記録した、『君の名は。』、『天気の子』、『すずめの戸締まり』の3作には共通点があります。それはいずれも“災害”が関係しているということ。『新海誠本』の中で、『すずめの戸締まり』は東日本大震災を描いた作品なのか?と聞かれて、新海監督はこのように答えています。

『そう思います、映画では固有名詞を用いてはいないですが、小説版では明確に2011年に日本の東側で列島の半分が揺れるような大きな地震があったと書きました。基本的にはエンターテインメントの冒険物語ではあるんですが、根底にはあの震災です』


『君の名は。』は、隕石の衝突。『天気の子』では、継続した降雨による街の水没が描かれていました。

自然災害は、時に人間の力ではどうすることもできないほどの破壊力で襲いかかります。そこに悲劇的なドラマがあり、映画の題材にもなっているわけですが、誰しも抱えている避けることのできない密かな不安が反映されています。

ルネサンスの芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチも、自然災害を恐れた一人の人間でした。
熱心に水を研究したダ・ヴィンチは、水の恐ろしさを理解し、「水は山に川をつくって谷を満たし、さらに、地球を完全な球にしようとしているのかもしれない」と、地球の将来は洪水で水没するということをノートに書き残しました。

美しい作品を生み出すアーティストの内側には、得体の知れない恐怖や不安が潜んでいるものなのかもしれません。それをエンターテインメントとして昇華し、美しさと面白さを提供しながら、深く人生を見つめ直すように促しているのかもしれません。

何かを鑑賞する際に、一体この作品は、深いところでは何を伝えようとしているのか、作品の背後に潜むメッセージをつかみ取ることができると、より人生が豊かになるはずです。
まだの方はぜひ、大ヒット作品『すずめの戸締まり』を見てみましょう。

想いを込めた作品を創ろう!

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2023年 1月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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