◆ ダ・ヴィンチ流ロールモデル実践法
人生の手本となるロールモデルを持つと、人生が進みたい方向に導かれていくという記事を前回書いていました。
今回は、元祖万能の天才と言われたレオン・バッティスタ・アルベルティをロールモデルにしたレオナルド・ダ・ヴィンチの具体的実践法・ロールモデルに近づく方法をご紹介していきます。その実践方法は2つあります。
- ロールモデルの思考をインストールし、自分の言葉に置き換えて主張する
- ロールモデルが勧める教えを真に受けて、愚直に誰よりも素直に実践する
もう少し具体的にこれがどういうことか、実例を通して順にみていきましょう。
◆ 理想とする人の思考を自分ごとにする
「ロールモデルの思考をインストールし、自分の言葉に置き換えて主張する」
ダ・ヴィンチはアルベルティの本である『絵画論』『建築論』『数学遊戯』『船』を読み込んでいました。理想とする人はどんな考えで世界を見ていたのか、考え方を自分にも取り入れようとしたのです。ただダ・ヴィンチは、丸暗記をしてインストールするのではなく、常に自分の言葉に変換をして定着させていました。他人の言葉そのままではなく、自分の言葉というフィルターを通すことで、より血肉化しやすくなるとダ・ヴィンチは考えていたのでしょう。これが自分ごとにする上での大切なポイントです。
具体的に、アルベルティとダ・ヴィンチの言葉を比較してみるとわかりやすいので、いくつか列挙してみます。
① 欲望と徳
アルベルティ
「実際、自らの魂を輝かせようと望む者は、快楽と呼ばれる、特に豊かさや富という名の、徳の敵たる俗事を軽蔑し、憎み、嫌悪しなければならない」
ダ・ヴィンチ
「食欲と眠気と怠惰な羽根布団こそ、この世からありとあらゆる徳を追放した。そのあげく、われらの本性はその道から迷って、ついに習慣に打ち負かされた」
「快楽に溺れる者は、野獣の仲間になれ」
② 絵画と彫刻
アルベルティ
「絵画と彫刻は同族に属する芸術であり、同じひとりの天才によって育まれた。しかし、私はいつも画家の才能の方を愛惜している。なぜなら、彼の仕事の方が一層困難だからである」
ダ・ヴィンチ
「絵画の次にくるのは彫刻である。これもきわめて優れた芸術であるが、その制作には、絵画ほど卓越した才能を必要としない」
③ 多様な描写
アルベルティ
「色々と違ったポーズをとった人体を描いた絵はいつも特に喜ばれるものである。ここに或る人々は真直ぐに立ち、真正面を向き、手を高くあげ、指を開き、片足でじっと立っている。他の人々は、顔を横に向け、腕を組み、両足を寄せている。このように各人それぞれ肢体を運動させたり屈折させたりしている」
ダ・ヴィンチ
「人物像の多様性について
人体というものは、均整がとれていたり、太って背が低かったり、痩せて背が高かったり、中肉中背のような場合もある。だから、このような多様性に留意しない画家は、人物像をいつも型通りに描くので、すべての人が兄弟のように見えてしまうのである。このようなことは大きな非難に値する」
④ 画家=神
アルベルティ
「絵画は、友情がそうであると同様、不在の人を出現させるばかりでなく、死んだ人を、ほとんど生きているかのようにする神のような力を持っている。それ故、芸術家に対する絶大な賞讃と憧れを以て、その人々は幾世紀後の時代においてでも認められるのである。・・・
自分の作品が礼拝されるのを見る絵の師匠というものは、自分自身をまるでもう一つの神と見なされるのを感じるであろう。」
ダ・ヴィンチ
「画家は、あらゆる種類の人体や、万物を生み出すことのできる主人であることについて
もし画家が、自分を魅了するような美人を眺めたいと思うなら、彼はそれを生み出すことのできる主人である。また、もし君が、恐怖に襲われるような怪物や、滑稽な道化や、心から哀れを催させる人を眺めたいと思うなら、彼はそれを生み出すことのできる主人であり神である」
4つご紹介しましたが、類似する言葉はまだまだあります。
このように手本となる人物の芸術観・道徳観に共感し、自分の言葉で置き換えることで、あたかも自分が初めて言ったかのような錯覚が起こります。尊敬する人と考え方を一致させることで進むべき指針ができ、自分にも自信が湧いてくるのです。
◆ 実践が命
「ロールモデルが勧める教えを真に受けて、愚直に誰よりも素直に実践する」
ダ・ヴィンチは違和感をキャッチしたらそのままにせず、容赦なく批判をする人物でした。たとえそれが常識で皆が当たり前に信じていてもお構いなしに批判しています。
一方、これは素晴らしい! と感じたものは素直に即実践。のめり込むほど徹底的に実践するのがダ・ヴィンチ流でした。
たとえば、アルベルティに影響を受けて実践したことに次のようなことがあります。
・イソップ童話の影響を受けていたアルベルティに習って、自分もイソップ童話的な動物譚を書いた。
・アルベルティの『暗号論』に影響を受け、暗号を文章や作品に盛り込んだ。
・鍛冶屋、建築家、船頭から靴屋に至るまで、誰からでも学ぼうとしたアルベルティに習って、あらゆる人から学ぼうとした。
・「画家はただ見えるものを描くことを研究する」というアルベルティの言葉に触発されて、存在しない奇跡的な描写を避けた。
・「画家はまず何よりも幾何学に通暁することを望む」というアルベルティの勧めにしたがって、幾何学図形を狂ったようにノートに書き連ねた。
他にも、まだまだ影響を受けて実践したことはたくさんありますが、私が思うにダ・ヴィンチほどアルベルティに心酔して実践した人はおそらくいなかったでしょう。
◆ マインドとアクションは車の両輪
大切なことは、優れた人のマインドを知って行動する、この2つを同時に行うことです。思想と行動はまさに車の両輪で、片方だけでは同じところをクルクル回るだけで適切に前進していきません。マインドとアクションは2つセット。いいと思ったことは素直に即実行!
次回は、レオナルド・ダ・ヴィンチの7種類の先生、④専門家 についてご紹介いたします。一体、ダ・ヴィンチはどんな専門家から学んでいたのか!? お楽しみに!
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2021年 6月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)