読書3.0〜天才ダ・ヴィンチの読書術 中編〜

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実在するダ・ヴィンチの座右の書

前回の天才ダ・ヴィンチの読書術 前編 の記事では、「読書1.0」、「読書2.0」、「読書3.0」の違いについてご紹介しました。

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前編記事の中で、ダ・ヴィンチはイソップ童話を読んでいたことに触れましたが、それ以外にも影響を受けた本がたくさんあります。ダ・ヴィンチが読んだ本リストの中に「フランチェスコ・ダ・シエナ」という一文があるのですが、これは、「シエナ出身のフランチェスコ」という意味で、フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニという人物が書いた『建築論』を意味しています。

マルティーニはダ・ヴィンチと同時代のイタリア人です。画家であり彫刻家、建築家であり軍事技師と、多彩な才能をマルチに発揮。万能の天才ダ・ヴィンチのお手本となるような優秀な先輩で、実際に一緒に行動を共にした仕事仲間でした。後世においては、ダ・ヴィンチの方が有名になってしまったので、「シエナのレオナルド」と呼ばれています。

『建築論』は日本でも翻訳されて、限定195冊というかなりのレア本として出版されており現在絶版となっています。この『建築論』は単なるマルティーニの文章だけではなく、ダ・ヴィンチのメモ書きが加えられているところに特徴があり、「レオナルド・ダ・ヴィンチ所蔵 書(かき)入れ ラウレンツィアーナ手稿」と呼ばれています。今回はこの『建築論』について、ダ・ヴィンチがどのように読みこなしていたのか、ご紹介していきます。

レオナルド・ダ・ヴィンチ所蔵 書入れ ラウレンツィアーナ手稿
『建築論』フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ

あの人体図はここから生まれた

私がふと「レオナルド・ダ・ヴィンチと聞いて何を思い浮かべますか?」と尋ねた時に、
「両手両足を広げた人体図」と答えてくれた人がいました。こちらのスケッチですね。

世界的に有名なウィトルウィウス的人体図といわれるものですが、実はこの人体図は、マルティーニの『建築論』が土台となって生まれました。

ウィトルウィウスというのは古代ローマの建築家の名前で、『建築論』の中でも、マルティーニがウィトルウィウスの建築理論を引用して解説をしており、ウィトルウィウスの人体図の可視化に初めて挑戦したのがマルティーニだったそうです。

このような人体図が描かれています。

マルティーニと交流があったダ・ヴィンチは、『建築論』を入手して読み込み、自分ならどう人体図を可視化するか、より洗練した図形へと進化させていきました。

そもそもなぜ建築理論に人体図? と思われるかもしれませんが、ウィトルウィウスは、人体と建築の比率には相関関係があると考えており、そのアイディアをマルティーニ、ダ・ヴィンチも応用していきました。マルティーニの『建築論』には、建築物に人物を重ね合わせた比率の対照スケッチがあります。

マルティーニは、先人の教えを深く学び、視覚化して情報を整理することに長けていました。ダ・ヴィンチのノートが常に視覚的な情報に満ちているのも、マルティーニの影響があったに違いありません。

読書をする時に重要なことは、書かれている内容を学ぶことはもちろん、どういう見せ方をしているか、わかりやすく伝える方法も同時に学ぶことです。

今日出版されているビジネス書でも、図解をしている本もあれば、上手にカラーリングで見やすくレイアウトしている本もあります。袋とじ特典をつけている本もあれば、最初のページだけ漫画でスタートしている本などもあります。

内容と伝え方を学んで自分の分野に応用する、これがダ・ヴィンチ流読書法といえます。もう1つ、ダ・ヴィンチの読書には特徴がありますので、次にご紹介いたします。

読みながら直接ページに書き込む

ダ・ヴィンチ流読書のもう1つの特徴。それは読書をしながら、何か思いついたら直接本に書き込んでしまうというものです。

『レオナルド・ダ・ヴィンチ所蔵 書入れ ラウレンツィアーナ手稿』という名前がついているように、実際にダ・ヴィンチは読んでいる最中にページに書き込みをしていました。

もちろん、全ページに書き込みをしていたわけではなく、気になった箇所だけです。
その数、12箇所。書き込みは、ダ・ヴィンチ特有の文字を反転させて書く「鏡文字」で綴(つづ)られているので文体が異なり、マルティーニの文章ではないことは一目瞭然です。

ページに書き込んでいる内容は大きく2つにわかれます。

1つは、気になる内容の見出しを1行で書いておくというもの。

ピンクで丸をつけた箇所が、ダ・ヴィンチが鏡文字で書き込みをした一文です。

「壺(つぼ)の中の水について」と書いています。

他にも、「解剖」、「幾何学の練習」、「角度の大きさの定義」、「綱の耐久性について」など、自分が気になるページに見出しを自分でつけています。

このように、ダ・ヴィンチは後で見返して読むときに、関心のあるページを拾いやすくする工夫をしていました。今の時代なら、蛍光マーカーで線を引いたり、付箋紙をつけてすぐにページを開けるようにする工夫に近いです。

しかし、自分の言葉で端的に1行で書き表す方が、より深く記憶としてインプットすることができます。

そして、ダ・ヴィンチ流読書のポイントをもう1つ。

それは、読んだ内容に関連することについて、自分なりの解説を書き込んでおくというものです。

たとえば、次のページは、少し長めの文章と、波のイラストも添えられています。
ピンクの四角で囲ってある部分がそれです。

こう書かれています。

「波について。海の波は常にその基底部の前で崩れ、波の頂点の部分はより低くなるであろう。つまり最初高かったところはより低くなるであろう」

この書き込みがなされているのは、このページ自体が河口に設置される防波堤についての記述があるためです。その防波堤に関連して、思いついた波の考察を書いています。

ダ・ヴィンチは水の研究に熱心だったので、本から学んで自分の研究や仕事に応用できる着想を考えていたのでしょう。

読書をすること自体、とても有意義なことですが、ダ・ヴィンチを見習って、さらに質の高い読書ができるようになりたいものです。

次回はいよいよ後編。別の切り口で、ダ・ヴィンチ的な読書術をご紹介したいと思います。お楽しみに!

天才も人知れず学んでいる。

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2022年 10月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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