鳥をひたすら観察したノート
複数回にわたって、「レオナルド・ダ・ヴィンチの7種類の先生シリーズ」について連載を書いてきましたが、いよいよ佳境を迎えています。
ダ・ヴィンチは多種多様な人を意識的に自分の手本にしていたのですが、前回は人間に飽きたらず、自然を先生にしていたことをご紹介しました。
自然界にある不思議な現象を見つけては、観察して疑問をノートに書き留め、その理由を探求し明らかにすることが、ダ・ヴィンチの生涯変わらぬ生き甲斐でした。
「虹が発生するのはなぜか」、「木の枝はどのように成長していくのか」、「キツツキの舌には何か特殊性があるのか」、などありとあらゆることに疑問を感じては、自分なりに調査をして解消に努めました。
中でも熱中したのが、“鳥の飛び方の観察” です。
鳥ばかりスケッチした『鳥の飛翔に関する手稿』と呼ばれるノートが残っているほどです。
鳥を研究すれば、人類も空を飛べるはず。ワクワク期待しながらこんな言葉を残しています。
「巨大な鳥は、偉大なチェチェロ山の峰から初めて飛び立つ。そして、全世界は驚嘆の声をあげ、あらゆる書物はその名声で一杯になるだろう。それが生まれた巣に不滅の名誉がもたらされますように」
出典:『鳥の飛翔に関する手稿』 レオナルド・ダ・ヴィンチ
「それが生まれた巣」とは、人工の巨大な鳥を発明したダ・ヴィンチ本人のことです。
ダ・ヴィンチの飛行機がこんなところに!?
今から500年前のルネサンスでは、飛行機はもちろん、自転車さえありませんでした。
自転車はいつ発明されたか知っていますか? 実は1800年代で機関車が発明された少し後のことです。機関車より後!?と思いますが、意外と遅くてびっくりします。
ダ・ヴィンチは生前に自転車のスケッチも残していたので、300年先駆けているわけですが、飛行機に至っては、400年も早く実現化に向けて考察をしています。
有名なのが「空気スクリュー」と呼ばれるいわゆるヘリコプターのような旋回をするもの。実はそのスケッチ、日本を代表する航空会社、全日空のロゴマークとして採用されていました。今は変わってしまいましたが、全日空の前身は、元々日本ヘリコプター輸送会社。ヘリコプターつながりで、ダ・ヴィンチのスケッチがロゴに採用されていたのです。
他には、あのディズニー・シーにも、ダ・ヴィンチが構想した飛行機の模型が展示されています。どこにあるか、ぜひ今度行った時にでも探してみてください。現代の日本人にも影響を与え続けている存在、それがレオナルド・ダ・ヴィンチなのです。
学ぶ対象を限定しない
飛行に関する記述やスケッチは、『鳥の飛翔に関する手稿』以外にも、別のノートの中にも見つかります。たとえば、次のスケッチは、鳥以外にも空を飛ぶ対象が描かれています。
よく見ると左上には、チョウチョ、中央右にトンボ、そして中央左に描かれているのはトビウオです。昆虫であるチョウチョやトンボの飛び方は鳥とも異なりますし、また水中で泳ぐトビウオが海面に飛び出して羽ばたく様子も、非常に独特なものです。
ダ・ヴィンチがしたことは、まず空を飛ぶ存在を全て洗い出し、どの飛び方が人間にマッチするのかを検証することでした。鳥も複数検討し、中でも最も参考になったのがコウモリです。
「まねをするならコウモリだ。鳥の羽には隙間があるため、その羽は互いに離れていて空気を通してしまう。しかし、コウモリの翼は強力な骨格によって全体に張られて隙間のない膜を授けられている」
出典:『鳥の飛翔に関する手稿』 レオナルド・ダ・ヴィンチ
他にもダ・ヴィンチは、ペリカンの飛び方も研究していたようです。ペリカンは重そうなクチバシを持ち、二足歩行で歩きますが、重たい頭を持つ人間に近いと感じたのかもしれません。「すでに実績のある全対象をまず考察する」。それがダ・ヴィンチ流の成功法則であり、考察することで必ず何か見えてくることがあるはずです。
成功はリサーチとタイミングで決まる
物事がうまくいくかどうかは、結局リサーチ次第です。しかし、ただリサーチさえすれば成功するのかというとそうではありません。ダ・ヴィンチは、天才的な発想で人間が空飛ぶ方法を探求しましたが、歴史上、空を飛んだ最初の人はライト兄弟です。
もしダ・ヴィンチがあと、100年か200年、遅く生まれていれば、もしかするとライト兄弟よりも早く飛行実験を成功できていたかもしれません。時代がまだダ・ヴィンチに追いついていなかったのです。
物事がうまくいくかどうかは、タイミングもあります。なかなか芽が出ないと思うときは、準備をしつつ、虎視眈々(こしたんたん)とその時を待つ忍耐も必要です。ぜひ十分なリサーチをして、タイミングが合うまで信念を貫いていきましょう。次回は具体的にダ・ヴィンチが構想した飛行機、各論編をご紹介いたします。
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2022年 9月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)