世界で初めて飛行実験を本気で試した人
世界で初めて、真剣に空を飛ぶことを熱望した人は誰でしょうか?
意外に思う人もあるかもしれませんが、その人物は今から500年前の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチです。ダ・ヴィンチと聞くと、『モナ・リザ』や『最後の晩餐』などの絵を描いた画家として有名ですが、実は偉大な発明家でもありました。
人類が初めて飛行に成功したのは、1903年のライト兄弟。
ダ・ヴィンチはその400年前に飛行実験をしていました。相当早いですね。
今回の記事では、ダ・ヴィンチがどのように空を飛ぼうとしたのか。
その試行錯誤の軌跡について紹介し、私たちの日常生活において、何かアイディアを形にするヒントにできればと思います。
発明のヒントは自然界にある
人間が空を飛ぶためにはどうすればいいか。ダ・ヴィンチは自然に突破口を開くヒントを見つけようとしました。解剖手稿の中でこのように言っています。
「才能ある人間がさまざまな発明を行い、目的に適うようにさまざまな道具を用いたとしても、自然ほど美しく、シンプルに、目的に合った発明をすることはないだろう。自然がする発明には何ひとつ過不足がないのだ。たとえば運動に適した腕や足を動物に与える際にも、平衡を保つ重りは必要としない」
空飛ぶ鳥や昆虫をつぶさに観察し、いろいろな飛行に関するメモを書き残しています。
ダ・ヴィンチの関心はカブトムシにまで及び、飛翔の際、カブトムシは、一対の翅しか使わず、もう一対の翅は保護のためか、予備として利用されるようだと考察しています。
鳥や昆虫のように、人間が羽ばたいて飛ぶにはどうすればいいか?
それがダ・ヴィンチにとっての最初の課題でした。
その課題をクリアするために、飛んでいる物体を片っ端から研究対象にしたのです。
試行錯誤しては、試作を作る。ダ・ヴィンチは自分の飛行プロジェクトを極秘に行い、滞在していた宮殿の一室を板で覆い隠し、他の人に気づかれないようにしていました。アイディアの盗用を恐れつつ、空飛ぶことを夢見て日々ワクワク過ごしていたのでしょう。
“空飛ぶ船”の発明
ダ・ヴィンチは、人間に鳥のような翼をつければ飛ぶことができるのではないかと考えました。どのくらいの大きさで、形状はどうすればいいか、羽の材質はどうするのがいいかなど、試行錯誤をしていました。
人間の力で、機械仕掛けの翼を羽ばたかせることができるのか、実験をしたスケッチが残っています。
このような実験を経て、ダ・ヴィンチはやがて人間の筋力では、鳥のように羽ばたいて空を飛ぶことはできないことに気がつきます。そこで考えたのが、“空飛ぶ船”と呼ばれる飛行機械です。
この飛行機械の特徴は、腕の筋力で難しければ、足の筋力ではどうかと発想を変えたところにあります。しかも使用するのは、足だけではありません。両足でペダルをこぐと同時に、両腕でハンドルを回し、さらには、頭や首、肩の力まで使って、機体を浮かせるために最大限、肉体を活用しています。
人間を乗せた装置を空中に浮かせることができるのかどうか、パワーの限界への挑戦です。
おそらくダ・ヴィンチは、この空飛ぶ船で飛行に成功しようとは思っていなかったはずです。なぜなら仮にパワーで浮かせることができたとしても、真上に浮かぶだけで、コントロールがうまくできないからです。しかも、パワーのある人は飛ぶことができても、非力な人には飛ばすことができません。そのため、総動員したマンパワーで浮くか、浮かないのか、その答えを知るためのものだったのではないかと思います。
成功するにはしかるべき手順がある
さて、ダ・ヴィンチの飛行実験から知らされることは、一つ一つ実験によって、実現性の有無を確かめているということです。
視野を広げるために、あらゆる空飛ぶ物体を観察していました。
その中で、自分の力で飛行している鳥や昆虫に着目し、人間も腕力を使って同じように飛べないかを検証しました。その結果、腕力では難しく、また全身を使って飛ぼうとすることも検証しますが、欠点があることに気がつきます。
ここで、ダ・ヴィンチは筋力を使って空を飛ぶことを断念し、別の方法に切り替えることを検討しました。それは何かというと、人間の力でダメなら、他の助けを借りるというもの。いわゆる、風力を使った飛行方法です。
何かやってみたいことがあるなら、悶々(もんもん)と考えていないで、まず実行に移してみることです。仮にうまくいかなかったとしても、それは、成功というゴールへと一歩近づいたという証になります。
少し長くなりましたので、次回ダ・ヴィンチが考案した風力を使った飛行機械をご紹介いたします。お楽しみに!
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2022年 9月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)