モナリザに対する作者の思い突然変異には2種類あり、『モナ・リザ』には両方が起きた
今回は、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた傑作『モナ・リザ』を取り上げ、最強ブランドをつくるプロセスについてご紹介いたします。
なぜ『モナ・リザ』は世界一有名な絵画になったのか、その問いにはいろいろな答え方ができるかもしれません。
例えば、
ダ・ヴィンチが生前死ぬまで手を加え続けていた渾身の力作だったから、ダ・ヴィンチの死後、フランス王やナポレオンが所持していたから、ルーヴル美術館で盗難されたことがきっかけで国家レベルの関心を集めたから、
など様々です。
しかし、今回はまったく別の切り口である「『モナ・リザ』は“突然変異した絵画”である」という、誰も語ったことのない独自の視点で解説をしてみます。
真っ白なキリン、ピンクのイルカ、2つの頭を持つブタなど、突然変異した動物には思わず注目してしまいますよね。突然変異には、何らかの遺伝的な変化によって生じる「自然突然変異」と、人工的な手段で起こす「人為突然変異」の2種類があります。例えば架空の生物ですが、ゴジラは放射能の影響によって誕生した怪物ですので、人為突然変異に当たります。
ここで何を言いたいのかというと、突然変異したものは他と明らかに異質なので、目立たざるを得ないということ。
『モナ・リザ』が絵画の中で、世界で一番目立っているのも実は、同じ理屈が理由になっています。突然変異した絵画だからなのです。
しかも面白いことに、単なる突然変異ではありません。『モナ・リザ』は構造的にいえば、この「自然突然変異」と「人為突然変異」の両方の変異が起きている絵画であると私は考えています。
バズるコンセプトは「意味変」にあり
『モナ・リザ』の突然変異について解説する前に、ぜひとも知って頂きたいことがあります。それはお笑い芸人や絵本作家として活動されている西野亮廣さんが語った「作品を届ける方法」です。
その内容は、企業とテレビ東京が共同で開催した「Climbers(クライマーズ)2021」というイベントで聞いたもの。作品を届ける上で重要なことは“意味変”だという話になります。
意味変とは文字通り、「以前と意味が変わる」ということですが、具体的な事例を通して理解する方がわかりやすいでしょう。
例えば、『ビックリマンチョコ』が意味変の一例です。学生時代、私もビックリマンチョコにハマった1人ですが、チョコは正直どうでもよく、シールが欲しいんですよね。
「一体、どんなキャラクターのシールが入っているんだろう?」というワクワク感の付加価値は、今までのチョコにはありませんでした。中にはチョコは食べずに捨てた人もいるほどで、まさに意味変と言えるチョコ商品の突然変異です。
私の実家には、キラキラ光るレアなビックリマンシールが眠っていたのですが、未だにコレクターがいるため、最近メルカリで活躍中です!
別の事例でいうと、「会いに行けるアイドル」をコンセプトにしてヒットしたAKB48も、意味変をしています。「歌」そのものよりも、「握手券」に価値がついたのです。
意味変の重要さを語る西野さん自身も、大ヒットした『えんとつ町のプペル』で意味変を実践しています。それは絵本を“子供の読み物”から、“個展のお土産”に変えたということです。
読み物だったら1冊しか普通は買いませんが、お土産のギフトにして自分以外の人に配ってもらい、より多くの人に届けることに成功したのです。意味をズラすことが多くの人に届ける秘訣である、と西野さんは言います。
同じように、『モナ・リザ』も実は意味変が施された絵画であるがゆえに、世界一有名な絵画になったというのが今回の趣旨です。これから、絵画に秘められた意味変を解説いたします。
『モナ・リザ』は元々、別の女性が描かれていた?
構造的にいうと、『モナ・リザ』は「自然突然変異」と「人為突然変異」の両方の変異が起きている絵画であると、先ほど説明しました。
フランス人研究者のパスカル・コットさんは、多重スペクトルカメラで絵の表面に強い光を当てて反射を測定する光学研究を行い、現在描かれている『モナ・リザ』の女性の下に、別の女性が描かれていることを発表しました。その下層に描かれていた女性を、デジタルで再現したのがこちらです。
私たちが普段目にする『モナ・リザ』と比べて表情が異なっていて、全体的に細身な印象を受けます。もしかすると、『モナ・リザ』のモデルは元々、下層に描かれていたこの女性で、上書きされた『モナ・リザ』は別の女性というように、何らかの事情で突然変異した女性なのかもしれません。これが「自然突然変異」の側面です。
「人為突然変異」は人工的な作為が入った変異ですが、これを理解するには、ダ・ヴィンチの考えを知る必要があります。
「絵画は高尚な学問である」とダ・ヴィンチが言いたかったから
ダ・ヴィンチが活動していた当時は、今では「ルネサンス」と呼ばれます。実はこの時代、画家は“芸術家”として地位を確立しておらず、身分の低い“職人”とみなされていました。そこでダ・ヴィンチは、絵画というアートの価値を高めようと尽力していました。
『モナ・リザ』の背後にある自然が遠くになるにつれて、うっすらと大気の青みの濃さを調節して描く技法は、ダ・ヴィンチが発明した空気遠近法です。他にも人物や自然を正確に描くために、解剖学や地質学、光学の知識を総動員しています。
この作業を通じて、ダ・ヴィンチは「絵画は学問である」と言いました。つまり、ダ・ヴィンチは絵画を「美の作品」から「高尚な学問」へと意図的に意味変を行っていたのです。
『モナ・リザ』に何か惹きつけられるという得体の知れない魅力は、巧妙に仕掛けられた意味変がベースになっているとも考えられます。ブランド作りも意味変を意識して作り上げると、『モナ・リザ』のように多くの人に認知され愛されるものになるはずです。
次回は、ダ・ヴィンチ流ブランドの作り方について解説をいたします。お楽しみに!
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2021年 7月 公式掲載原稿
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