テレビ番組にも採用された“瞬時に伝わる”ダ・ヴィンチの伝え方

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ネット配信に押され気味な今、テレビは何に挑戦するのか

先日、東京MXで放送されている『小峠英二のなんて美だ!』という番組にレオナルド・ダ・ヴィンチの解説者として出演してきました。

2021年10月から始まったまだ新しい番組で、 
「アート初心者でも アートを楽しく学べる 日本一敷居の低いアート番組」
をテーマにしたアートバラエティ番組です。

芸人のバイきんぐ小峠英二さん、乃木坂46の樋口日奈さん、アートディレクターの中谷日出さんの3人を中心に、毎回楽しくアートを学びます。
時間帯は火曜の深夜24:00〜24:20の20分間。

東京圏の配信のため、東京以外の地域は、エムキャスというアプリをダウンロードすることで、リアルタイムで視聴できます。
エムキャス

私は、レオナルド・ダ・ヴィンチ(完結編)の回に出演させて頂きました。以前放送された岡本太郎編は観たことがあったのですが、知らなかったことが色々とあり多くの発見がありました。和やかな雰囲気の中、途中小峠さんがツッコミながらも真面目に学べる番組です。

アート×バラエティをコンセプトにしているだけあって、楽しみながらとてもわかりやすく学びが得られます。最近はNetflixを中心にネット配信による独自コンテンツも盛り上がっていますが、テレビも負けじと質の高い番組作りに挑戦していると感じました。

テレビは今回初出演だったのですが、知らされたことをご紹介したいと思います。

ダ・ヴィンチが実践していた伝え方の工夫

『小峠英二のなんて美だ!』の放送時間は20分と比較的短い番組です。事前に番組ディレクターとZoomで打ち合わせをして、何をどう伝えるかが焦点になりました。万能の天才ダ・ヴィンチを語るには、続編を10回くらい放送して欲しいというのが私の本音でしたが、さすがにそうもいきません。

アート初心者に、たった20分で一気にダ・ヴィンチに興味を持って頂くにはどうすればいいか。私はレオナルド・ダ・ヴィンチの伝え方を思い出し、ディレクターにアイディアをお伝えしました。

ダ・ヴィンチは歴史上最もアウトプットをしていた1人ですが、そのアウトプットには特徴がありました。彼の頭の中に常に渦巻いていたのが、“物事を比較する”ということ。もちろん多くの人が日々、比較検討して選択をしていると思います。しかし、ダ・ヴィンチの場合、その比較の仕方が尋常ではないのです。

たとえば、ダ・ヴィンチは人体解剖に熱中し、研究結果を書物に残して後世の人に伝えようとしました。その際、頭部の構造を明らかにするために、“あるもの”と比較し、図解しています。

出典:『解剖手稿』

この頭部のスケッチ左横を注目してみてください。唐突に「玉ねぎ」を描いています。なぜダ・ヴィンチは、人間の頭と野菜の玉ねぎを比較したのか。それは、構造の類似性にあります。

頭部は、髪の毛の下には頭皮があり、さらに、頭蓋骨膜、脳硬膜、脳軟膜と複数の層に包まれています。同様に玉ねぎも皮の下にいくつもの層があるため、似たような構造になっているといえます。このようにダ・ヴィンチは、何気ないものから共通点を見つけ出すという天才でした。

さらに、人体の構造を分かりやすく伝えるために他の動物の骨格と比較し、並列して図示しています。比較することで、人間の特性が見えてくるからです。

出典:『解剖手稿』

目の前に100円玉があったとしましょう。「その100円玉は小さいですか? 大きいですか?」と聞かれたら、なんと答えますか?

思わず「小さい」と答える方も多いかもしれませんが、実はこの問いには答えようがありません。なぜなら、1円玉と比較すれば大きいですし、500円玉と比べたら小さいからです。

比較することでようやくその実態が見えてきます。私はこのダ・ヴィンチの比較で視覚的に訴える方法を踏襲し、番組ディレクターに伝え方を提案しました。

例えば、『モナ・リザ』って有名だけど、「一体どこがすごいの?」というのは多くの人が感じる疑問だと思います。言葉での説明も必要ですが、私は視覚的に一発で分かる伝え方を思いつきました。それは、『モナ・リザ』と『ヴィーナスの誕生』の2枚を並べて伝えるという方法です。

2つの顔を並べて見て気づく、描き方の違いは何かお分かりでしょうか? 実は決定的な違いがあるのですが、それは輪郭線です。ダ・ヴィンチが描いた『モナ・リザ』は輪郭が曖昧にボケているのに対し、ボッティチェリが描いた『ヴィーナスの誕生』はハッキリとした輪郭性が描かれています。

ダ・ヴィンチは、「煙のような」を意味するスフマートという技法を用い、より写実的な描き方をしていました。この2枚の画像が画面に映し出された時、小峠さんも「あ〜、なるほど!」とツッコミをすることもなく納得されていました。

他にも、生涯のダ・ヴィンチの絵画数はわずか約20枚、一方でピカソは2000枚弱と、100分の1の絵画数であることを伝え、いかにダ・ヴィンチ作品が少なく、また貴重であることを印象づけることもできました。

短い時間で、いかに相手を惹きつけるか。ダ・ヴィンチは、視覚を用いた比較伝達が理解を早める近道であると教えてくれています。

初心者に伝える秘訣

どの収録でもそうだと思いますが、基本的に台本を元に進行します。収録中、NGが出たり、あまり盛り上がらなかったということも発生することがあります。そのため、当然ではありますが、放送時間よりも長めに収録が行われます。不要だと判断した部分は後でカットするなり大幅に編集するのですが、オンエアを観た際にうまくつなぎ合わさっていたので、テレビ番組制作スタッフの技術はさすがだなと感心しました。

番組で盛り上がった内容が採用されるわけですが、実は準備をしていたにもかかわらず、時間が押してしまったため、収録中に泣く泣くカットになった部分もありました。そこは気持ちを切り替えて次のシーンに臨みます。

私は主にダ・ヴィンチ・コード的な謎解き解説がメインで出演したのですが、その謎解きも事前に複数の内容を準備していました。採用されたのはそのうちの1つです。

不採用というか時間の関係でお蔵入りになった内容を振り返ってみると、ちょっとマニアックな内容だったんですよね。番組のコンセプトが「アート初心者に楽しく学んでもらう」ということなので、上級編の内容を伝える前に、まずはみんなが知っている『モナ・リザ』や『最後の晩餐』、そして、ルーヴル美術館とロンドンナショナルギャラリーに存在する2枚の作品『岩窟の聖母』が取り上げられました。

実はこの『岩窟の聖母』が採用されたのも、2枚ありながらも微妙に差異がある絵画で、視覚の比較で瞬時に伝えやすかったからです。それと、他の理由としては、だいぶセンセーショナルな驚きの仕掛けがあったからでもあります。

それはさておき、初心者に伝えるには、身近な作品から入って理解してもらうことが効果的であることを体験させて頂きました。まずはとっつきやすい内容で、そして視覚を用いて比較で伝える。短時間で伝えることに困ったらぜひ実践して頂ければと思います。

届ける末端の人を想定して伝えろ!

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2022年 3月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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