ダ・ヴィンチが暗号を好んで使っていた可能性は極めて高い
「ダ・ヴィンチ・コミュニケーション」について、いくつか記事を書いてきました。今回はその上級編についてお伝えしていきます。
レオナルド・ダ・ヴィンチと聞くと、2003年にアメリカで出版されて話題になったミステリー・サスペンス小説、ダン・ブラウン著『ダ・ヴィンチ・コード』を思い出す人も多いかと思います。
「世界的に有名な絵画『モナ・リザ』や『最後の晩餐』には歴史を塗り変えるような暗号が隠されていた!?」というセンセーショナルな内容が世界に波及し、44言語に翻訳されています。ちなみに私は“ヴィジュアル愛蔵版”の『ダ・ヴィンチ・コード』を所持しています。
『ダ・ヴィンチ・コード』は、3年後の2006年には映画化もされています。私は最近、映画に触発されてイタリア・フランスのロケ地を巡った人と出会いましたが、それだけ惹きつけられるインパクトがあったのでしょう。
果たして小説で紹介されている通りに、ダ・ヴィンチが絵の中に暗号メッセージを仕掛けたか否かは、もはやダ・ヴィンチのみぞ知る世界でその真偽はわかりません。研究者からは裏付けのある根拠がなく、解釈が誤っていると批判もされています。
とはいえ、そもそも小説は論文や学術書とは異なり、作者の想像力が形となったものです。事実を正確に伝えることより、どこまでファンタジーをリアル感をもって伝えられるか、そこに作者の創意工夫があります。
実際、私も『ダ・ヴィンチ・コード』を読んでみて、この本の面白さはどんでん返しのあるストーリーや、アカデミックなトリビアを散りばめた知的さにあったのではないかと感じました。そして、キリスト教の根底を覆すような波紋を投げかけた点が、世界的関心を呼んだのでしょう。
では、ダ・ヴィンチ絵画に暗号は存在しないのか?というと、私はそもそもダ・ヴィンチには暗号思考があったと考えています。ダ・ヴィンチが残したノートを読んでみるとそれがわかります。
なぞなぞの奇妙なページの狙いは「アハ体験」!?
不思議なイラストがたくさん描いてあるこのページ、いったい何を表しているのでしょう? このページはダ・ヴィンチが残したノートの一部にあるのですが、「判じ絵」と言われています。日本でも江戸時代に庶民の間で流行した謎解きスケッチです。
たとえば、上から2行目の後半にあるこの部分の判じ絵は、右から「山、パン、風、帆を掲げた人(順風満帆)」と並んでいます。下に書いてあるイタリア語の綴りを繋げて、この判じ絵を読み解くと、「悪事による成功は罪を招く」という意味になります。道徳的なメッセージが込められていて面白いです。
一見これは何なのだろう?という疑問を与えた上で答えが分かると、いわゆる「アハ体験」が起きます。アハ体験とは、元々ドイツの心理学者カール・ビューラーが提唱した心理学用語で、日本でも脳科学者の茂木健一郎さんが紹介して有名になりました。「今まで分からなかったことが瞬時に分かるようになる体験」という意味で、一見意味不明な暗号めいた判じ絵の意味が解けた時の感動がアハ体験です。
このアハ体験を意図的にコミュニケーションに用いると、非常に強いインパクトを相手に与えることができます。ダ・ヴィンチ絵画に注目が集まるのも、そこにはやはり知られざるメッセージがおさまっているからではないでしょうか。不朽のミステリー名画『モナ・リザ』が真に読み解かれた時のアハ体験は、きっと世界にすごい衝撃が走るはずです。
不安が喜びに一転する動画を使ってみる
さて、アハ体験が体感できる面白い動画をご紹介します。
スピードペインターを名乗る画家が、1分30秒で絵を描くという動画です。2012年にアップされた動画でそれから2100万回以上再生されていますので、見た方もいるかもしれません。
面白いのが、1分30秒たっても何を描いているのか分からないのに、一瞬でその意味が分かるというものです。まさにアハ体験ですね。3分程度の短い動画ですので、よければ見てみてください。英語ですが言葉が分からなくても楽しめます。
まったく意味不明なものでも、急に意味があるものとして立ち上がってくると、強い印象を与えることができるいい事例です。上級編のテクニックになりますが、このような最初は何かよくわからないけれど、後で意味がわかる形で伝えるという方法です。
なかなかそのような高等テクニックはすぐには思いつかないという場合にも、おすすめの方法があります。ちょうど今回の記事で私が紹介したように、YouTubeでアップされているアハ体験動画をストックしておき、たとえ話として自分の文脈に合うように組み込んで伝えるというものです。ただ単にずっと自分の話をするよりも、動画を見せることで気分転換にもなりますし、たとえ話を使うことでより理解も深まります。
冒頭に紹介した『ダ・ヴィンチ・コード』は、その真偽はともかく、まさにアハ体験の連続を体現した小説だったので、多くの人の心をつかんだのではないでしょうか。
人間には未知のことを知りたいという欲求があります。新しいことを教えてくれる人には価値を感じます。ぜひアハ体験を起こすレベルのコミュニケーションを実現していきましょう。
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2022年 2月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)