レオナルド・ダ・ヴィンチと建築3【7種類の先生】

関連記事は、以下の2つです。

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ダ・ヴィンチのToDoリストに書いてあったこと

天才レオナルド・ダ・ヴィンチと聞くと、どこか人づき合いを避けて行動する孤高の天才的なイメージを持つ方もあるかもしれません。実際に、自分の人生を犠牲にするような無駄な人づき合いは、厳(げん)に慎んだ方がよいとアドバイスをノートに書き残しています。

しかし、人づき合いをしなかったのかというと、全くそうではありません。
ダ・ヴィンチのノートには、今でいうToDoリストがメモされていて、自分がすべき仕事のタスクに加えて、とにかく「自分が知りたい答えを知っていそうな人」に会うことを重要なタスクとしていました。

自分が知りたい答えを知っていそうな人とはどんな人のことでしょうか?
それは専門家と言われる人たちです。ダ・ヴィンチはバラエティ豊かな専門家に積極的に会いに行き、自分の分からないことを教わって疑問を解消していました。

餅は餅屋と言われますが、自分で一から試行錯誤するよりも、やはり専門家に聞く方が早く目的地にたどり着けます。その専門家について、これまで数学者のルカ・パチョーリ、建築家のドナート・ブラマンテの事例を、過去の記事で紹介しておりましたので、ご興味あればお読みください。

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ダ・ヴィンチが所持していた唯一実在する本

今回ご紹介する専門家は、前回に引き続き建築家です。その建築家の名前は、フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ。イタリアのトスカーナにあるシエナで生まれてルネサンス期を過ごし、後にダ・ヴィンチに多大なる影響を与える人物です。

マルティーニは、ダ・ヴィンチと同じように、画家・彫刻家として名を馳せた後、ウルビーノ公国の君主であるフェデリーコ公に気に入られ、長らく建築家兼軍事技師として活躍しています。ダ・ヴィンチもミラノの宮廷に軍事技師として迎えられたように、近い境遇同志、お互いのマルチな才能にシンパシーを感じて意気投合したことでしょう。

マルティーニは、ダ・ヴィンチの13歳年上で、ミラノにも招かれています。2人は、古代の騎馬像を見学しに行くなど行動を共にしていたことが記録されています。
さらに、マルティーニが書いた『建築論』を譲り受け、そこにダ・ヴィンチが書き込みをした所持本が現存しています。実は、マルティーニの書物には、ある斬新な革新がなされていました。

『建築論』 フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ

視覚言語のはじまり

マルティーニが書いた『建築論』を開いてみると、あることに気がつきます。それはダ・ヴィンチのノートとよく似ていることです。これは、マルティーニの本を読んだダ・ヴィンチが、大いにリスペクトをして模倣したと考えられます。ダ・ヴィンチは尊敬する人の言うことには素直に耳を傾け、そして実際に取り入れるタイプの人間でした。

どんなことを真似したかというと、1つは文章の書き方です。マルティーニの本は、豊富なイラスト付きで、図解に満ちています。ルネサンス人に影響を与えた建築家の先駆者は、古代ローマの建築家ウィトルウィウスと、ルネサンス初期に活躍した万能人アルベルティの2人。両者とも本を書き残していますが、文章が中心で、言葉こそが技術的な知識や情報を誤りなく伝えられる手段だと考えていました。実際に、絵で示す場合は、下手な人が模写をしてしまうと誤解を与えてしまう恐れがありました。印刷機が発達していない時代ならではの配慮だったのでしょう。

しかし、画家でもあったマルティーニは、絵の力を信じていました。絵は言葉だけで伝えるよリも、もっとわかりやすく伝えることができる。そして、図で示して解説をするというスタイルで自身の『建築論』を書き上げ、そのまま共鳴したダ・ヴィンチにも引き継がれていきました。ダ・ヴィンチは、スケッチを視覚言語と呼び、いかに文字より絵が優れているかを力説しました。たとえば、ダ・ヴィンチは、自分の書き残したノートに、詩人と画家はどちらが優れているか、このように述べています。

「他のすべての結果において、詩人は画家に凌駕(りょうが)されている。だが、絵画の扱う対象は、言葉が扱うものとは比較にならないほど多種多様にわたっている。というのは、ふさわしい語彙がないために、言葉で名付けられないものが無数に存在するが、画家はそれらをすべて表現できるからである。さて、もし画家が動物や地獄の悪魔どもを描写しようとするなら、どれほど豊かな発明力でもって縦横無尽に描き分けられるかを君は知らないのか」

天才のアイディアの作り方

絵画・彫刻・音楽・建築・舞台デザイン・兵器開発・都市計画と、クリエイティブなことで才能を発揮した万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。彼のアイディアの源泉はどこにあったのかというと、その多くはすでにある既存の発明品でした。

「自走車」と呼ばれる車の原型の発明がダ・ヴィンチのノートにスケッチされていますが、実はダ・ヴィンチの発案ではなく、マルティーニの『建築論』から発想を得たものではないかと指摘されています。

ダ・ヴィンチは飛行機の発明も、あらゆる角度から試みていますが、それもやはりすでに存在して空を飛んでいる鳥を研究したものでしたし、徹底的にすでにあるものを知り尽くし、応用することが新たな発明につながっています。

そして、ダ・ヴィンチのすごいところは、他人の発想をそのまま真似るのではなく、必ず自分なりのアレンジを加えて改良しているところです。

パクるという言葉がありますが、人のアイディアをそのまま使うと問題になることもあります。自分なりの解釈を加え、明らかにオリジナルさが感じられる模倣、それがダ・ヴィンチ流の上質なコピーです。優れた発明は世に満ちています。ぜひ学びを深めて、新しいモノやコトを生み出していきましょう。

自分で悩んでいないで、専門家に聞きに行け!

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2022年 7月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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