風力を生かした3つの飛び方
人類が空を飛ぶためにはどうすればいいか、それを真剣に悩んだ人物がレオナルド・ダ・ヴィンチ。今回の記事では風力を生かした発明をご紹介します。
前回、ダ・ヴィンチが筋力を使って空を飛ぼうとした軌跡について書いていました。
残念ながら人間の筋力では、鳥と同じようには空を飛べないと悟ったダ・ヴィンチ。次にとった行動が風力を利用した飛行研究でした。
ダ・ヴィンチの残したノートには、パラシュートやハングライダーの原型となるようなスケッチが描かれています。
今日、ダ・ヴィンチがスケッチしたパラシュートやハングライダーを再現したところ、無事に空中を飛ぶことができたことが報告されています。ダ・ヴィンチは、もっと高度な機械仕掛けの飛行機で成功を収めたかったので、本人は満足していなかったと思いますが、それでも注目すべきことでしょう。個人的に最も創造的で面白いと感じたダ・ヴィンチの発明は、「はね車」という球体のスケッチです。
操縦者は真ん中のコクピットに位置し、その周りの複数のはねの部分は回転する仕組みになっています。操縦者は中心位置で常に垂直を保つ仕組みとのことで、なんとも斬新な発想です。まるでタンポポの綿が風に吹かれて飛んでいくようなアイディアです。
このように、風力を生かした飛行研究をしていましたが、まだ発動機がない時代。本格的に人類が空を飛ぶのは、400年後のライト兄弟まで持ち越しとなりました。
“魂を持たない”飛行物の研究
ダ・ヴィンチは、鳥や昆虫、そしてトビウオに至るまで、ありとあらゆる空飛ぶ生物を研究していました。しかし、それに飽きたらず、なんと非生命体である飛行物にまで考えを巡らしています。
ウィンザー紙葉には、「空気を落下する魂を持たないさまざまな形のものについて」とメモがされています。
パリ手稿Gには、空気静力学の研究がされており、「空中を落下する物体について」と書かれたページがあります。
さらに、スケッチつきで「板にぶら下がった人間の、空中での落下に関する研究」とあります。
このスケッチの意味について、このように解説がされています。
「湾曲した紙または板が空気中を通って落下するとき、物体の底面は空気に下方向への圧力を与える。このようにして空気は圧縮されるが、その一方で上面と側面の空気は希薄になる。物体の底面は上面に比べて軽くなるのである。
また、このとき、上面は下側にくぼむ。このことによって、紙や板の落下に典型的な、ジグザグ運動が生じるのである。このように広い幅を往復しながら落下することによって、垂直落下に比べて、より緩やかな着地が可能となる。板にぶら下がっている人間の場合は、まず板を左に傾け、次に右へと傾ける。この方法であれば、空中をより緩やかに降下することができるだろう」
ダ・ヴィンチの好奇心と観察力は常軌を逸していると思えるほど、すさまじいものがあります。できる限り、関連するすべての事例を分析して、自分がしようとしていることに取り入れられないかを検討する姿勢、実はこれがダ・ヴィンチの描く絵画にも反映されています。世界でもっとも有名な絵画『モナ・リザ』も、ただ思いつきの気分で描いた肖像画ではなく、長年の試行錯誤の結晶なのです。
世界で最初のエアバッグ!?
『鳥の飛翔に関する手稿』の中に不思議なスケッチがあります。
鳥の形をした飛行機械と地上にいる人間。よく見るとこの人間の胴体の周囲には何やらたくさん丸い物体がついています。これは何なのかというと、今日でいうエアバッグです。
「人が6ブラッチョ(筆者注:1ブラッチョは約60cm)の高さから落下しても怪我しないための皮袋。たとえ落ちるところが水上でも地上でも同様である。これらの皮袋を数珠のように繋ぎ合わせて、人の体にくくりつけよ」
ワインの皮袋を膨らませて使用する航空救難装置です。
ダ・ヴィンチは墜落の危険性を回避するために、湖で飛行実験をするようにとアドバイスをしていたりもしますが、ただ飛ぶことだけを考えるのではなく、安全面にも配慮する考えを持っていました。
両極端の性質をあわせ持つ
映画監督の黒澤明さんが好んだ言葉に、「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」というフレーズがあります。悪魔と天使も反対であれば、細心と大胆も反対の意味です。
京セラの創業者の稲盛和夫さんも、リーダーは「両極端の性質を合わせ持っていなければならない」と言い、周りを導く人は、優しいだけでも、厳しいだけでもダメで、優しさも厳しさも両方必要であり、温情と冷徹さの両方を使いこなせる人が本物であるということを言っています。
ダ・ヴィンチは創造的な人で知られていますが、同時に危機管理能力も備わった人だったことが、飛行研究の実験から伝わってきます。
他人から最後に評価されるポイントはやはり人格です。一朝一夕にはいきませんが、ダ・ヴィンチを見習って、少しずつ自己成長をしていきましょう。
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2022年 9月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)