自然こそ最高の先生
レオナルド・ダ・ヴィンチの7種類の先生シリーズ、今回は「自然編」です。
ダ・ヴィンチのノートをひもといてみると、「自然」という単語がよく出てきます。そして、特徴的なのが、単に「自然は美しい」と感傷に浸っているのではなく、崇拝レベルで自然を尊敬している点です。
「人間の発明の才は、ひとつの目的に対して異なる道具で対応しながら、いろいろな創造を行う。しかし、決してそれらが自然の創造物よりも美しく、容易で、直接的であることはない。というのも、自然の創造物にはいかなるものも不足していないし、余分なものもないからである」
出典:『解剖手稿』レオナルド・ダ・ヴィンチ
身の回りにある花や木、動物や昆虫などの生物、さらには地球という惑星自体、ダ・ヴィンチの関心はあらゆる自然の存在に向かっていきます。自然の創造プロセスを学べば、人間も素晴らしい発明ができると信じ、実際にヒントを得て生かしていきました。
自然観察の手順
普段何気なく眺めている自然が先生であり、いろいろなヒントを教えてくれる存在であると認識すると、同じものを見ていても捉え方が変わります。
ダ・ヴィンチの場合は、自問自答という形で常に疑問を投げかけていました。
たとえば、水について観察した際、なぜ?という疑問を5回以上重ねてこのようにノートに書いています。
「なぜ水は流れるのか、なぜその運動は終わるのか。そして、なぜ遅くなったり速くなったりするのか説明してみよう。さらに、なぜ水は自分より低い空気と境を接すると、常に下降するのか。なぜ水は太陽熱によって空気中に上昇し、やがて雨となって再び下降するのか。また、なぜ水は山々の頂きから湧き出すのか」
なぜ?を重ねることで、段々と物事の本質が見えてきます。
ダ・ヴィンチにとって水は生命の源でもあり、洪水によって環境に破滅をもたらす水は大きなテーマでした。
思いついた疑問をノートにメモをとり、画家であったダ・ヴィンチは視覚的に美しいスケッチも残しています。
ちょっとした日常の一コマもアートになる。そんなことを教えてくれるスケッチです。
こんなスケッチを見ると、何気ない出来事であっても、もっと丁寧に注目してみようという気にさせてくれます。
ノアの洪水を地質学的に論破したダ・ヴィンチ
ある日、登山をした村人が、山中で化石を発見しました。貝殻の化石を手にとって、村人はこう思いました。
「この貝殻は、大昔にノアの洪水が起こったという証拠だ。聖書に書いてあることは本当だったんだ!!」
大手柄と言わんばかりに、その化石を持ち帰り、村の人たちに自慢をします。
それを聞いたダ・ヴィンチは、自らも山に登って同じように化石を発見しました。
ところが、この村人とダ・ヴィンチの反応は違いました。
なぜ山に貝殻の化石があるのだろうと疑問を持つ。ここまでは同じです。
ダ・ヴィンチは、古くから信じられている聖書説を鵜呑みにするのではなく、実際に地質学的な現地調査を開始しました。
すると、異なる地層から貝の化石を発見。2段ある化石層を見て、聖書には大洪水は2回起きていたとは書かれていないことに気がつきます。また、二枚貝の化石も見つかったのですが、2つの貝殻が綺麗につながった状態であることを確認しました。もし大規模な洪水が起こったのであれば、きっとちぎれてしまってバラバラになっているはず。
化石の貝の配列を見ても、整然と規則的に並んでいることを発見しました。激しい大洪水が起きたのであれば、もっとランダムに見つかっても良さそうです。
他にも様々な角度から地質学的に検証し、ダ・ヴィンチは山中で化石が見つかるのは、ノアの洪水が原因なのではなく、海底が隆起して山になったからであると結論づけます。
自然を科学的に考察することで、地球の仕組みの理解につながったのです。
自然に学んだ大ヒット商品
こすると摩擦でインクが消えるフリクションボールペン。一度は使ったことがあるのではないでしょうか? 以前、フリクションボールペンの誕生エピソードについて、テレビで紹介されていました。その説明によると、実は意外にも紅葉にヒントを得たといいます。
紅葉とフリクションボールペン、一体どんな関係が? と思いますが、ある研究者が、紅葉の季節に、一夜で黄緑色の葉っぱが赤色に変わった様子を見て、温度差による色変化が気になったそうです。
それにヒントを得て、温度によって変化する成分を組み合わせ、65度以上になると色が変化して透明になるようなボールペンが出来上がりました。
まさに自然は素晴らしい発明のヒントを教えてくれる先生です。
ダ・ヴィンチは特に鳥を観察し、どうすれば人類が空を飛べるのかを研究していました。次回は、ダ・ヴィンチがどんなプロセスで人間飛行に挑戦したのか、ご紹介いたします。お楽しみに!
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2022年 8月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)