大学生からの切実な質問
私の本を読んだ読者から、1つの質問が届きました。このような質問です。
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Q
以前、母の勧めでDaヴィんちさんの本『超訳ダ・ヴィンチ・ノート』(飛鳥新社)を読ませていただきました。ダヴィンチをあまり知らない人に対しても、分かりやすい本で、何よりダヴィンチに対する底知れぬ愛を感じました。また、ある一つのことに対して強い想いをもつことへの憧れも感じました。
私は現在、大学3回生です。将来、何がしたいかまだ明確ではありませんが、桜川Daヴィんちさんのような方のお話を学生のうちに聞きたいと思っております。
そこで、伺いたいのですが、桜川Daヴィんちさんから、どうして一つのことにそれほど熱中できるのかを聞かせていただきたいです!
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A
「将来何がしたいか」という問いは、本当に大きな人生のテーマだと思います。
人によっては早くからなりたい将来をはっきりさせて、プロを目指してスポーツや音楽に打ち込んだり、あるいは医師を目指して医学部を受験する人もいらっしゃいます。実際に私の親友は夢を叶えて医師になっていて、早いうちにやりたいことを見つけ、そこに一直線に進む姿を見て、なんともうらやましいなと思ったものです。
質問されている方も、まだそういった目指すものがなくて焦りを感じているかもしれません。どちらかというと、きっとそういう人の方が大半だと思いますし、紛れもなく自分もその1人でした。
生まれ変わっても同じ仕事をするか?
さて、私の場合ですが、大学の学部は法学部でした。在学中に最初考えたのは、いくらか学部に関連した仕事で興味を持てそうなことがいいかなと思い、家庭裁判所の調査官という仕事を見つけて、実際に職場訪問をして現役の方からお話を聞きました。
家庭裁判所の調査官というのは、「少年事件」や「家事事件」について調査をする仕事です。現役の方がお話されて印象的だったのは、「もう一回生まれ変わって同じ仕事をするかと聞かれたら、たぶんしないと思う」という意外な答えでした。理由は、人の心に寄り添うというのは美しい響きがしますが、実態は、それだけしんどい人間関係に直面する辛さがあるからということだったのです。
正直な感想を聞いて、生まれ変わってもしたくないという仕事を、自分はこれからするのはどうなんだろう?という疑問が湧きました。わざわざ辛い人生を選ぶよりも、もしかしたら他に違う道があるのかもしれない。私はせっかく目指すものを見つけたと思っていたのですが、視野が狭かったのかもしれないと思い、就職はせず国際系の大学院に進学しました。
大学院では、自分で問いを立てて研究をし、論文にまとめることをしました。短期でニューヨークに飛んでインタビュー調査をしたり、充実した大学院生活を送り、大学時代と同じようにまず考えたことは、やはり今やっている自分と関連した仕事に就けないだろうか、ということでした。
周りからも国際系の分野なら英語を生かした仕事がいいのではないか?と言われ、一時期通訳の学校にも通いました。TOEICはいちおう800点を取っていたのですが、「のめり込むほど英語が好きか?」「通訳にやりがいを感じるか?」と問われると、そうではないなと思いました。むしろ、「なぜ自分は人の話を翻訳するのだろう。むしろ自分の話を誰かに翻訳してほしい…」という不遜ながら本音に気づき、自分の考えを発信したかったということに気付きました。
自分の違和感こそ大切にすべき
将来何になりたいか? さらに考えました。すると、大学の研究職という選択肢が浮上します。
しかし、今度は別の問題にぶつかりました。大学院では、論文作成や学会発表をしていたのですが、当然ながら対象は学者の方ばかりで、一般の方はほとんど縁がありません。アカデミックワールドの閉鎖した空間内部にしか、基本的には情報が届かない。もちろんそれも価値があることなのですが、もっと多くの人に自分の発想や考えを届けるほうがやり甲斐があるのではないかと感じました。
自分は一体何が得意なんだろう?と考えた時に、パワーポイントを使った視覚にうったえるプレゼンが得意だということに気づき、思い切って研究職に見切りをつけ、広告やデザイン系の業界への就活にシフトチェンジ。畑違いの分野からの挑戦でしたが、幸い受け入れ先が見つかり、学びながら仕事を始めていきました。
ここで大切なのは、自分がやりたいことは、何か取り組んでみて初めて気づかされるということ。ですから、今選んだ分野に縛られる必要はありません。
そもそも、最初からやりたいことがわかっている人のほうが少数派。そのため、行動を起こしてやりながら抱いた違和感と対話し、軌道修正をしていく。その中でようやく何がやりたいのかが見えてくるのではないかと思います。
人生を変えたルーヴル美術館
無事就職も決まり、仕事を始めると中々海外には行けなくなるなと思い、卒業旅行で母親とフランス旅行に行きました。小さな頃から好きだった美術館巡りを思い出し、世界で最も有名な美術館であるルーヴル美術館へ。
世界一有名な絵画『モナ・リザ』を見に行こうと美術館を歩いていた時に、「おや、この絵はなんだろう?」と、ふと1枚の絵画が目に飛び込んできました。
絵に近づいて作者を確認すると、レオナルド・ダ・ヴィンチと書いてありました。絵のタイトルは『バッカス』。あまり有名ではない絵画だったのですが、眼力のある視線、意味深なポーズが何かを伝えようとしていると感じ、帰国してから調べ始めました。
すると面白いことがたくさん見つかり、独学で研究を始め、気がつくと10年間ダ・ヴィンチに関わり続けてきました。まったく見知らぬ絵との出会いがきっかけで、今の自分があります。
つまり、熱中できるものとの出会いは、実は“想定外”だったりするということです。
今回は私の具体的な体験から、熱中できるものを見つけるプロセスをたどってきましたが、次回は、体系的な内容をご紹介したいと思います。お楽しみに!
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2021年 12月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)