あのダ・ヴィンチも人の手を借りまくっていた
ルネサンスが生んだ偉大な巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチ。その肩書きはバラエティに富み、画家、彫刻家、建築家、音楽家、軍事技師、舞台演出家、発明家、地質学者、植物学者、解剖学者、天文学者…。あらゆることに挑戦した才気ある人物としてあまりにも有名です。代表作『モナ・リザ』は世界一有名な絵画として、今もなお多くの人を魅了し続けています。
万能の天才と呼ばれ、さまざまな偉業を成し遂げたダ・ヴィンチ。生まれ持った才能に加えて、“3つの魔力”が彼を万能の天才にさせたのではないか、そんな考察を綴っていきます。
前回は、ダ・ヴィンチが「観察魔」であったことをテーマにしました。人とは違う視点で物事を観察し、実験をしていたことを紹介しています。
前回の【観察編】が自分の思考を深めて実践するプロセスだったことに対し、今回の【質問編】は、人の力を借りて結果を生み出すプロセスです。
ダ・ヴィンチと聞くと、孤高の天才をイメージし、1人で黙々と研究していることをイメージしがちでしょう。事実そうではなく、共同して研究をするパートナーがいたり、「この人は!」と思う人がいたら即座に会いに行っていました。
「自ら考えて実践する」「人に尋ねて取り入れる」、この2つの行動レベルが最高潮に達していたのが、偽らざるダ・ヴィンチの実像だったのです。
ダ・ヴィンチの「ToDoリスト」の半分は質問事項
実はダ・ヴィンチが書き残したノートの中に、ToDoリストのようなメモ書きが残されています。15項目あるうちの8項目は、なんと人に尋ねることが書いてあります。たとえば、
・算術の達人に、三角形の面積を教えてもらう
・ブレーラの修道士に『重力について』を見せてもらう
・砲兵のジャンニーノに、フェラーラの塔に穴をあけずに壁を建てた方法について聞く
・ベネデット・ポルティナーリに、フランドル地方では人々がどうやって氷上を進むのか尋ねる
・水道設備の専門家を見つけて、水門、運河、水車をロンバルディア様式で修繕する方法を教えてもらうこと
ダ・ヴィンチが尋ねる相手には共通点があります。何かわかりますか?
それは、何らかの“専門家”であること。餅は餅屋と言われるように、素早い結果を出すには、その道のプロに尋ねることが最短の道です。専門家に聞けば、「一体どうやるんだろう?」と悶々と悩んでいたことが一瞬で解決してもらえます。
ダ・ヴィンチはそのことを強く自覚していて、自分が成し遂げたい分野の専門家を常に探し、直面している問題の解決方法を手に入れようとしていました。そのような専門家に会いに行き、質問する行動が習慣化していたため、ToDoリストの大半が質問をすることになっていたのでしょう。
優れた質問「質問3.0」とは何か?
質問には実はレベルがあります。私は「質問1.0」、「質問2.0」、「質問3.0」と、3段階のレベルに分類してみました。
最初の「質問1.0」ですが、これは、自分が聞きたい個人的な質問をすること。「えっ…、質問ってそういうものではないですか?」という声が聞こえてきそうですが、もちろん間違いではありませんし、ぜひ聞きたいことがあれば聞いて頂きたいです。
しかし、たとえば大勢いる場で個人的な質問をした場合、その質問の答えは他の方にとってあまり関係がなかったりします。非常に深く考えた個人的な質問であれば、他の方の参考になることもありますが、何となく思いついた興味本位の質問では、答える方も困ってしまう場合もあるかと思います。そのため、もし自分以外の人も周囲にいる場合は、「質問2.0」を使います。
「質問2.0」は、「質問1.0」と反対です。つまり、話し手の文脈に沿ったものということが大前提で、その上で自分がよく分からなかったこと、さらに、おそらく聞いていた他の人も分からないだろうと、もう一歩突っ込んで聞いてほしいと想定される質問です。
この質問をすると他の方にも喜ばれますし、いい質問をしてくれてありがとうと後で感謝をされることもあります。人前で質問をすることは勇気がいりますが、自分にとっても、周囲の人にとっても有益になると確信できれば、自信を持って質問することができます。「質問2.0」ができれば上出来です。
そして、質問にはさらにハイレベルなものが存在します。それが「質問3.0」。本質的な質問を投げかけ、質問されるまで思いもしなかった気づきが話し手に得られるような質問です。
以上からまとめますと、
・「質問1.0」では、質問した自分だけが満足する
・「質問2.0」では、自分と聴衆である他の人も満足する
・「質問3.0」では、自分と聴衆、さらには話し手も満足する
このような違いがあります。
「質問3.0」はなかなか高度な質問です。この質問をするためには、話し手が語る内容を完全に理解し、さらに、話し手のこれまで生きてきた人生や、どんな活動をしてきたか、背景知識まで知っておくとしやすくなります。
ダ・ヴィンチは、自問自答を習慣にしていた
誰かに質問をするには、相手が必要だと思われます。しかし、相手がいなくても実は質問ができます。自分に対して質問を投げかける自問自答をすればいいのです。
ダ・ヴィンチは自問自答を習慣にしていました。たとえば、『アトランティコ手稿』にはこのような一文があります。
「かわいそうに、レオナルドよ。なぜお前はこんなに苦しむのか」
ダ・ヴィンチにも、天才だからこそ感じる苦しみがあったのかもしれません。自分を深く見つめて尋ねてみる。すると、普段意識していなかった本当の原因が見えてくることがあります。
何か壁に行き詰まった時は、自分に「なぜ?」と問いかけてみましょう。情報が洪水のように流れてくる現代社会において、実は必要なことは自分との対話だったりするのです。
次回は、私がめったに会えない人にした具体的な質問をご紹介いたします。お楽しみに!
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2021年 11月 公式掲載原稿
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