テオ・ヤンセンってどんな人?
大阪南港ATC Galleryにて、テオ・ヤンセン展が2022年9月25日まで開催されました。テオ・ヤンセンはオランダ出身のアーティストで、“現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ” と称される人物。デルフト工科大学で物理学を専攻し、在学中に絵画制作を行って芸術活動をスタートさせています。独自のプログラミングを用いた絵画制作を行い、新しい表現を模索していました。
5年ほど画家として活動した後、『空飛ぶUFO』(1980年)を自作し、実際にUFOが飛んでいると新聞やニュースで話題になっています。このような人をあっと驚かせるような発明を行う点が、レオナルド・ダ・ヴィンチと共通していると感じますが、この『空飛ぶUFO』の創作経験が、やがて生涯のテーマとなる “ストランドビースト” につながっていくのです。アートと科学をクリエイティブに融合させた点こそ、現代のレオナルド・ダ・ヴィンチと言われる所以です。展覧会では、ヤンセンが描いた、有名なウィトルウィウス的人体図のパロディ作品もありました。きっと本人もダ・ヴィンチを意識しているのでしょう。
風を食べて動く人工の生命体 ストランドビースト
ヤンセンが発明したストランドビーストとは何か。オランダ語で「ストランド」とは「砂浜」を意味します。ビーストは動物であり生命体。つまり、ストランドビーストとは、風を動力源として、砂浜を駆ける人工の生命体を意味します。
ヤンセンはどのような経緯で、ストランドビーストを思いついたのでしょうか? ヤンセンは、1986年から新聞のコラムを執筆しているのですが、その中で「砂漠の放浪者」というコラム記事を書いたそうです。オランダの海面上昇問題を取り上げ、ある生命体をオランダの砂浜に放って、それらが砂丘を作ることで海岸を守るという発想を持ち、ストランドビーストの構想につながったとか。
ストランドビーストには、大小様々な形態があり、各ビーストには名前もつけられています。動物を意味する「アニマル」と、ラテン語で海を意味する「マーレ」を組み合わせて、「アニマリス」が名前の最初につけられています(「アニマーレ」の方が造語っぽくわかりやすいのですが、「アニマリス」が正しいです)。
ストランドビーストは、主に「プラスチックチューブ」、「ウレタンチューブ」、「結束バンド」、「ペットボトル」の4種類の材料を駆使して制作されています。
ユニークだなと感じたのは、ペットボトルを「胃袋」にたとえているところです。ペットボトルは自然の風を圧縮空気としてエネルギーに変換して蓄えています。空気圧に耐えられるように、炭酸水用の強度のあるペットボトルが使用されています。プラスチックチューブは、塩ビ管ともいわれますが、チューブの内側の色が赤色に変更になると知ったヤンセンは、その後の活動も見越して、なんとチューブ全長50km分を買い占めたそうです。
ストランドビースト体験
テオ・ヤンセン展に行ってみて、最も価値があると感じた体験は、実際にストランドビーストが動く様子を見ることができたことです。10時15分より1時間おきに約15分程度、ストランドビーストが動く様子を見ることができます。
私が見た1体は、上記写真のアニマリス・プラウデンス・ヴェーラでしたが、巨体が目前に近づいて来る様は迫力があり、観賞者から「オ〜!!」と歓声が上がっていました。ストランドビーストの欠点は、後退ができず前進しかできない点です。そのため、スタッフの方が一度後ろに引っ張ってまた前進させていました。
また、鑑賞者は、自分自身で動かすこともできます。アニマリス・オルディスという小型のストランド・ビーストで、子供から大人まで動かして楽しんでいました。
https://youtu.be/NNMValTmtmc筆者の体験動画
ストランドビーストの特徴
ストランドビーストを知って驚いたことは、その自立性にあります。人間が手で押さなくても風を受けて歩行し(風がなくてもペットボトルに溜まった風で動ける)、帆をはためかせたり、尻尾を振る。さらには、ハンマーで杭を打ったり、危険を察知して方向転換さえできたりします。展覧会でも映像つきで “危険回避” の様子が流れていましたが、まさにAIロボットのようです。
ヤンセンは、13という数字をホーリーナンバー(聖なる数字)として考え、13の比率で脚を作成し、幾何学的な動きを実現させました。このように言っています。
「プラスチックチューブの制限に導かれるままに、機能的に作ろうとして、結果としてそこに美があっただけなんだ」
一生懸命、試行錯誤すれば、美は後でついてくる。
「見栄えだけ気にして実力がない」よりも、まず「がむしゃらに努力して体裁は後で整える方がいい」、そんなことを教えてくれている気がします。
ヤンセンは、ストランドビーストが増殖していくことを「繁殖」と捉えました。この「繁殖」には、ヤンセン自身が新たに創作することに加え、インターネット上での拡散も含まれます。
創造主であるヤンセンが亡くなっても、ネットの拡散を通して、新たな創り手が新種のビーストを生み出せれば永く繁栄していきます。生物の絶滅もささやかれる今日、未来の行く末を見越して、自立発展性のある生命体を構想していたところに、ストランドビーストの偉大な特徴を感じます。ぜひご興味のある方はテオ・ヤンセンについて調べてみてください!
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2022年 8月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)