知られざるレオナルド・ダ・ヴィンチの人柄
芸術家であり科学者、何でもやりたいことをやり尽くした万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチって、一体どんな人柄だったのか?
以前、開催していたダ・ヴィンチ勉強会で、こんな質問をされたことがあります。
ダ・ヴィンチ研究を始める以前、個人的には、あまり人を寄せ付けない孤高の天才のようなイメージを持っていました。
世界一有名な絵画と言われる『モナ・リザ』は、いまだにどのような理由で描かれたのか謎に包まれており、どことなくミステリアスな雰囲気をダ・ヴィンチから感じます。
とはいえ、ミステリアスな天才というイメージだけで、人柄を決めつけてしまうのは性急でしょう。
歴史上の人物について知る方法があります。それは当時、本人に実際会ったことがある人からその印象を聞くことです。
幸い、実はそんな伝聞(でんぶん)が残っています。
その知られざる人物像がわかると、なぜダ・ヴィンチが次から次へとチャンスをものにし、やりたいことを実現できたのかが、うっすらと見えてくるのです。
同時代を過ごした人は、ダ・ヴィンチの人柄をどのように証言しているのか。早速聞いてみましょう。
ジョルジョ・ヴァザーリの証言
美術家で著述家のジョルジョ・ヴァザーリは、1511年、イタリアに生まれました。
ダ・ヴィンチはすでに老成の域に達しており、幼いヴァザーリは直接面識はなかったものの、弟子のフランチェスコ・メルツィを訪れて、師匠のダ・ヴィンチについて直接インタビューをしています。ヴァザーリは、間接的にダ・ヴィンチを知った形になります。
フランチェスコ・メルツィは、ダ・ヴィンチが亡くなるまで側に仕えた愛弟子であり、献身的に師匠を支えた秘書的な存在でした。大切な遺産は、すベてこのメルツィが受け継ぎ、師匠のノートをまるで聖遺物かのように保管し守っていたと言われています。
ヴァザーリは、ルネサンスの芸術家たちの活躍を『美術家列伝』という本にまとめました。そして、ダ・ヴィンチについては、まずこのように言っています。
圧倒的な才能を発揮したレオナルド・ダ・ヴィンチは、
「真に驚嘆すべき神々しい人」
出典 ジョルジョ・ヴァザーリ『美術家列伝』第三巻
だったと。
そして、その人柄については何度も褒め称えています。
「レオナルドには、いくら称賛してもしきれない肉体の美しさに加えて、そのどんな動きにも限りない優雅さがそなわっていた」
出典 ジョルジョ・ヴァザーリ『美術家列伝』第三巻
「生まれつき気品と優雅さに富んだ気質の持ち主」
「彼の話ぶりはたいへん心地よかったので、人々の心を強く引きつけた」
「彼は、非常に美しく、輝かしいその容姿によってどんなに沈んだ心をも晴れやかにし、その言葉によってどんな頑な人の心も左右することができた」
ここから分かることは、ダ・ヴィンチは優雅に人と接し、巧みな会話力で多くの人を魅了していた、ということです。多くの成功を手にした要因の一つには、きっと洗練された立ち振る舞いが影響していたのでしょう。
決定的な出会いも、立ち振る舞いで決まる
立ち振る舞いが、いかに人生において重要であるかを教えるエピソードを紹介したいと思います。
私がある夫婦から聞いた熊本の病院で起きた実話です。
颯太さん(仮名)は、自分の妹の彼氏のお見舞いで最寄りの病院に来ていました。
颯太さんの見た目は、俳優の横浜流星似で、身長も179センチの長身。
その颯太さんと、看護師をしていた里美さん(仮名)が病院で出会います。
里美さんは、颯太さんの端正な容姿に一目惚れ……したのではなく、素敵な立ち振る舞いに感動したといいます。
一体颯太さんはどんな言動をしたのか、里美さんに聞いてみました。
本人は覚えていないそうですが、颯太さんは妹の彼氏と一緒に病院を出る時にこう言ったそうです。
「こいつは貴方達みたいな看護師に出会えて、そして看護してもらい幸せ者です。
本当にありがとうございました。
貴方達みたいな看護師が、熊本の医療を支えてくれています。
コロナ禍の中大変でしょうが、どうかお身体に気をつけて、熊本の医療を支えて下さい。
微力ながら応援させていただきます。本当にありがとうございました」
そう言い残し、深々とお辞儀をしてさっそうと去って行きました。
里美さんは、この自然と心から放たれた颯太さんの言葉に感動しました、いや、里美さんだけではなく、あの素敵な好青年は一体何者だ!と、看護師の間で話題沸騰となったのです。
看護師たちが、颯太さんを知っている人はどこかにいないか尋ね回ったところ、なんと
知り合いの知り合いの知り合いくらいに颯太さんを知っている人が見つかりました。
その後、2人はあらためて出会い、初デートに里美さんが持ってきた弁当が決め手となり、交際がスタートします。あまりのおいしさに颯太さんはこう思ったそうです。
「あぁ、毎日こんな食事が食べられたらいいなぁ」と。
その後、とんとん拍子に恋物語は展開していき、気がつくと里美さんの誕生日に入籍していたそうです。
ダ・ヴィンチの話し方アドバイス
この実話エピソードのように、日頃から立ち振る舞いが素晴らしければ、予期せぬ出会いが生まれ、それが運命を好転させていきます。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、先ほどのヴァザーリの証言、
「彼の話ぶりはたいへん心地よかったので、人々の心を強く引きつけた」
というように、会話に長けていました。
そのダ・ヴィンチが書き留めたノートの中に、話し方のアドバイスをしているところがあります。
「人の話を聞く以外の方法で、その人が何を好んでいるかを知ろうと思うなら、いろいろと話題を変えて話すといい。その人があくびをしたり、嫌な顔をせず、じっと注目しているのであれば、間違いなくそれこそが相手が好む話題だ」
出典 レオナルド・ダ・ヴィンチ パリ手稿
ここで大切なことは、自分の好きな話をするのではなく、相手が好む話題にするということです。
人は知らず知らずに自分の得意分野の話をしたり、ややもすると知識をひけらかしています。しかし、それは単なる自己満足なのかもしれません。
本当に会話が上手な人は、相手の心を敏感に察知し、相手が聞きたい話題を提供したり、癒される言葉を届けられる人です。
ぜひ言動を磨き、素晴らしい立ち振る舞いを目指していきましょう。
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2023年 2月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)