レオナルド・ダ・ヴィンチと建築2【7種類の先生】

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 仲の良さが伝わる絵画

万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチには、多いに影響を受けた人がいました。そのうちの1人が、ドナート・ブラマンテです。

ブラマンテは、ルネサンスを代表する偉大な建築家ですが、元々は画家としてスタートしています。ダ・ヴィンチよりも8歳年上の先輩であり、ミラノの宮廷で名を馳せ、その後ローマを中心に活躍しています。ミラノでは、楽器を演奏し、劇の演出もしていたそうなので、ブラマンテはまさに万能の天才ダ・ヴィンチを彷彿(ほうふつ)とさせる未来像でした。ダ・ヴィンチは30歳でミラノに移住しますが、2人はその時に出会い、意気投合します。そんな2人の仲睦まじい様子が表現されている絵画があります。ブラマンテ作の『ヘラクレイトスとデモクリトス』です。

左がヘラクレイトス、右がデモクリトスなのですが、実はこの古代ギリシャの2人の哲学者にはモデルが存在して、ヘラクレイトスがダ・ヴィンチ、デモクリトスがブラマンテを表しているという説があります。面白いことに、広げられた本の文字が右から左に書かれていて、これはダ・ヴィンチ特有の書き方である鏡文字を意識してのことだと指摘されています。

宮廷芸術家同士、最先端の情報を持ち寄って、知的な話題で花を咲かせていた様子が伝わってきます。

『ヘラクレイトスとデモクリトス』ドナート・ブラマンテ(1490〜1497年頃)

 この世の最高の建物!?

ダ・ヴィンチの最も有名な作品の1つ、『最後の晩餐』はどこにあるかご存知ですか?
イタリア、ミラノにあるサンタマリア・デッレ・グラッツィエ教会にあります。実はこの教会の改築にかかわったのがブラマンテでした。ダ・ヴィンチとブラマンテは、まさに時代の最先端を走る芸術家で、お互い切磋琢磨していたのです。ブラマンテは画期的で斬新な空間演出を行い、当代随一の建築家として知られるようになり、ダ・ヴィンチのお手本となる存在でした。

ブラマンテもまたダ・ヴィンチを尊敬し、後にダ・ヴィンチの発想を自身の建築に取り入れています。ヴァチカンにある世界で最も荘厳な建物の1つであるサン・ピエトロ大聖堂も、ブラマンテが構想し、その後ラファエロ、ミケランジェロと錚々たる芸術家に引き継がれてようやく完成しました。私も以前、現地で見たことがありますが、人間が作り出す限界を突破した最高の美の極致であると感じるほど圧倒的な空間でした。個人的には、死ぬまでにぜひとも見ておきたい建物です。

 建築の医師ダ・ヴィンチ

建築の権威的立場であったブラマンテは、難解な建築の監督をすることがありました。ミラノの大聖堂のティブーリオと呼ばれる八角塔を再建することになった際、5人の建築家によるコンペが行われ、改善案を施した模型が提出されました。ブラマンテは、その中から優れた2人の模型を折衷案として活かすことを決定し、そこにダ・ヴィンチが加わって、折衷案の具体化をした模型作りが行われたといいます。

その際、ダ・ヴィンチは、ミラノの大聖堂の建設局宛に手紙を書き記しています。書き出しに、医療を提供する者は、人間とは何か、生命、健康を理解し、均衡と調和のバランスを大切にすべきであると強調し、建築にも応用して語っています。

「これと同じことが大聖堂にも当てはまります。すなわち、建築とはいかなるものか、健やかな建築とはいかなる規則から導き出されるのか、その規則はどのようにして得られるのか、建築はどのような部分に分かれているのか、どのような理由によって建築物が一つにまとまり、永久に支えられているのか、重さの本質とは何か、力とはどのような作用を及ぼすものなのか、各々の部材をいかにして繋ぎ結び合わせるか、そこからどのような効果が生まれるか、これら諸々の事柄を十分にわきまえた者が、すなわち建築の医者なのです。

ここに申し述べましたことを本物の知識として身につける者こそは、その理論と作品とにおいて皆様を満足させることでありましょう」

出典:『建築家レオナルドI巻』 カルロ・ペドレッティ

人体と建築を比較していますが、全然異なる対象の共通点を探して物事を考えることは、ダ・ヴィンチの十八番といえる思考プロセスです。

そして、徹底的にあらゆる角度から疑問を投げかけ、本質に迫ろうとすることも、非常にダ・ヴィンチらしい文章だと感じます。ただ見栄えが良いだけでは不十分で、全体の調和を考えることが健康においても、建物においても大切なことなのですね。

シャンボール城

 現存するダ・ヴィンチの建築

現存するダ・ヴィンチの建築物は、ほとんどないのですが、一部構想していたスケッチが取り入れられています。フランスのロワール地方にシャンボール城という立派なお城があるのですが、内部に大きな二重螺旋階段があり、それがダ・ヴィンチのスケッチを具現化したものだと言われています。

シャンボール城 二重螺旋階段、ダ・ヴィンチのスケッチ        

ダ・ヴィンチは、晩年フランス王フランソワ1世に招待され、アンボワーズというフランスの片田舎に移り住んでいます。牧歌的な自然に囲まれて穏やかな余生を過ごしたダ・ヴィンチですが、生涯現役で創意工夫のアイディアを凝らしていたことが伝わってきます。人生を終えるまで、新しいことにチャレンジをする精神を見習っていきたいものです。

独創的な発想を持って、調和させろ!

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2022年 7月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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