レオナルド・ダ・ヴィンチと建築【7種類の先生】

目次

世界一有名な人体図の謎

レオナルド・ダ・ヴィンチには7種類の先生がいた!? という連載記事を書いています。前回の記事はこちら、「レオナルド・ダ・ヴィンチの7種類の先生【専門家 数学編】」をご覧ください。

あわせて読みたい
レオナルド・ダ・ヴィンチの数学【7種類の先生】 【ダ・ヴィンチ流 人づき合いのルール】 レオナルド・ダ・ヴィンチには7種類の先生シリーズで、前回はダ・ヴィンチと親交のあった解剖学者の事例から、なぜダ・ヴィン...

これまで、ダ・ヴィンチは専門家の中でも、特に解剖学者と数学者に影響を受けていたという事例をご紹介しましたが、今回は建築編です。

レオナルド・ダ・ヴィンチと聞くと、どんな芸術作品を思い浮かべるでしょうか?

『モナ・リザ』、『最後の晩餐』、そして『ウィトルウィウス的人体図』、この3つがダ・ヴィンチと聞いて思い浮かぶ作品のトップ3です。いずれもパロディ作品がたくさん生み出されるほど世界中に親しまれる作品ですが、きっと皆さんも一度は目にしたことがあるでしょう。

日本でも『ウィトルウィウス的人体図』は、以前、ドコモのおサイフケータイサービスのシンボルマークとしても採用されていました。

「一人ひとりが必ず持つ、自分自身の分身」

という意味合いで用いられていたそうです。この人体図は2つの体が合体していて、まさに分身的なアイコンなのですが、なぜ人体が重なっているのか? どんな経緯で描いたものなのか? その謎に迫っていきたいと思います。

『ウィトルウィウス的人体図』レオナルド・ダ・ヴィンチ

ウィトルウィウスって何?

ウィトルウィウスというのは、人名です。

古代ローマ時代に活躍した建築家の名前です。ダ・ヴィンチが感銘を受けた書籍の1つが、ウィトルウィウスが書いた『建築書』で、ダ・ヴィンチ・ノートの1つであるマドリッド手稿には、「書店巡りをしてウィトルウィウスを探せ」というメモが残されています。

ダ・ヴィンチが貪り読んだと思われる『建築書』の第一書の第一章には、建築家としての心構えが書いてあります。

「建築家は天賦の才能に恵まれていなければいけないし、また学習にも従順でなければならぬ。なぜなら、学問なき才能あるいは才能なき学問は完全な技術人をつくることができないから。そして願わくば、建築家は文章の学を解し、描画に熟達し、幾何学に精通し、多くの歴史を知り、努めて哲学者に聞き、音楽を理解し、医術に無知でなく、法律家の所論を知り、星学あるいは天空理論の知識をもちたいものである」

「人間の本性がそんな多くの学問に精通しそれを記憶にとどめることが可能だということ、それは経験のない人たちにはふしぎに思われるであろう。けれども、すべての学問は互に内容の連絡交流をもっていることを知る時、この人たちもこうあることが可能なことを容易に信ずるであろう。学問全体は、実に、一個の人体のようにその肢体から構成されている。それで、若い時からいろいろな教養で仕込まれた人は、あらゆる書き物に同じ徴を認め、あらゆる学問の共通点を認め、そしてこのことから割合楽に全体を知るのである」

一般に画家として知られるダ・ヴィンチですが、建築家として建物の設計もノートに描いています。また図形をひたすら描きまくった幾何学オタクであり、フランス王にも認められた哲学者、いろんな楽器も発明して演奏を披露する音楽家でもあり、歴史上初めて人体の構造を明らかにした解剖学者。さらに宇宙を探求したロマンあふれる知の冒険者でした。

ウィトルウィウスは、多くの学問に精通することは「可能」であり、そうなることを推奨していたわけですが、ダ・ヴィンチは素直に真に受けて実践し、そして万能の天才と呼ばれるまでになりました。

そのような普通ありえないように思えることも、実際は「可能」であり、その状態こそが立派な建築家なのだと教えたウィトルウィウスの存在が、ダ・ヴィンチという偉人を生み出す一助になったのかもしれません。

できないと決めつけているのは自分。本来、人間には無限の可能性が眠っているからどんどんチャレンジしよう。そんなことをダ・ヴィンチの姿から気づかされます。

ダ・ヴィンチの伝えようとしたこと

ダ・ヴィンチは、この人体図を通して何を伝えようとしたのでしょうか。
ウィトルウィウス的人体図には、上段・下段に文章が書いてあります。その内容を読めば意図が分かるので、少し長いですが、訳文を読んでみましょう。

「建築家のウィトルウィウスは、建築学に関する著作において、人間の寸法は生まれつき下記のように定められていると主張する。

指の幅4つで手のひらの幅になり、手のひら4つで足の長さになる。手のひら6つで腕の長さになり、腕の長さ4つで身長になり、一歩の幅にもなる。手のひらを24倍すると人の身長になる。

これらの寸法は、彼の建築物にも使われている。もし、身長が14分の1ほど低くなるように両足を開き、広げた両腕を中指の先が頭頂と同じ高さになるように持ち上げると、広げた四肢の中心はへそにきて、両足が描く空間は正三角形になる。

人が両腕を広げると、その両端の長さは身長に等しくなる。髪の生え際からあごの先までは身長の10分の1、あごの先から頭頂までは身長の8分の1に相当する。胸の上端から頭頂までは身長の6分の1、胸の上端から髪の生え際までは身長の7分の1にあたる。

また、乳頭から頭頂までは身長の4分の1であり、肩の最大幅も身長の4分の1、肘から手の先までは身長の5分の1、逆に肘から肩の端までは身長の8分の1に相当し、手の全長は身長の10分の1になる。

また、陰茎のつけ根は身長の半ばに位置する。足の長さは身長の7分の1に、足底から膝下までは身長の4分の1、膝下から陰茎のつけ根までも身長の4分の1に相当する。あごから鼻、髪の生え際から眉までの長さはそれぞれ耳までの長さと同じで、顔の長さの3分の1に等しい」

文中には、ウィトルウィウスが『建築書』で書いている人体の比率が引用されてるのですが、実はそのままの引用だけではなく、ダ・ヴィンチ自身が見つけた比率が大幅に追加されています。

さらに、

「胸の上端から髪の生え際までは身長の7分の1」

「足の長さは身長の7分の1」

の2つについては、ウィトルウィウスはいずれも6分の1と主張していたので修正を加えています。

ダ・ヴィンチは先哲に学びながらも、常に改良改善を加えるスタンスで物事に取り組んでいました。『ウィトルウィウス的人体図』は洗練の極みといえる人体図なのです。

さて、だいぶ長くなりましたので今回はこの辺で。次回も引き続き、別の建築家の影響をひもときながら、この人体図に隠された謎についてご紹介いたします。お楽しみに!

常に改良を加える努力をしよう!

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2022年 7月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次