内容の独自性&聞き上手を超えた会話術【コミュニケーション3.0 理論編】

目次

ダ・ヴィンチは孤高の存在ではなかった

万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチと聞くと、どんなイメージを持つでしょうか? 以前、私が主催するダ・ヴィンチ勉強会で同じような質問をしたところ、「芸術家で天才だから、気難しい孤高の存在」と言った人がいました。

ルネサンス時代に活躍した芸術家について伝記を書いている、ジョルジョ・ヴァザーリという人物がいます。自身も画家で建築家でありながら、美術評論家という立場で163人もの活躍を綴っています。その中で、レオナルド・ダ・ヴィンチの話し方について、このように言っています。

「彼の話ぶりはたいへん心地よかったので、人々の心を強く引きつけた。」
「彼は、非常に美しく、輝かしいその容姿によってどんなに沈んだ心をも晴れやかにし、その言葉によってどんな頑固な人の心も左右することができた。」
(※出典:ジョルジョ・ヴァザーリ、『美術家列伝 第三巻』(中央公論美術出版))

ヴァザーリとダ・ヴィンチはギリギリ同時代ですが、ヴァザーリは今でいう小学校に入学した頃くらいにダ・ヴィンチが亡くなっているので、直接的な面識はなかったようです。

代わりにダ・ヴィンチの愛弟子であるフランチェスコ・メルツィに会いに行って、生前のダ・ヴィンチはどんな人だったかインタビューをしています。インタビュー内容を正確に書いていればいいのですが、ちょっと脚色して面白おかしく書いている文章もあるため、すべてが正しい情報ではないと言われていますが、貴重な時代の情報源として重宝されています。

今回はそんなコミュニケーションの達人、ダ・ヴィンチからとっておきの会話法を学んでみたいと思います。

コミュニケーション1.0

無人島で暮らさない限り、どんな人にも人間関係のしがらみからは免れません。そんな私達に欠かせないスキルが会話。話し方の本が昔も今もベストセラーになっていることからも、多くの人の関心度がずっと高いのが会話です。

ではどんなことを話せばよいでしょうか? 以前、何かの本を読んでいたときに、次の言葉が心に残りました。

優れた人間は、自分の考えていることを話し、
ふつうの人間はものごとについて話し、
つまらない人間は他人のことを話す。

恋愛で誰と誰がくっついたとか、誰々がスキャンダルを起こしたとか、人間は、人の噂話が好きな生き物です。噂話と並んで話題に挙げやすいのが、天気の話だったり、最近のニュースだったり、直近の仕事など、今自分が直面している物事の話です。

このような話題は正直誰でも思いつくものなので、私はコミュニケーション1.0と定義しています。噂話や物事の話が必ずしも悪いわけではありませんし、入り口としては当たり障りがなく、話しかけるきっかけづくりになりやすいです。しかし、それだけに終始してしまうと、あまり印象に残らない会話になってしまいます。

コミュニケーション2.0 

では、次の次元であるコミュニケーション2.0とは、どんな会話を指すのでしょうか? それは、先ほどの優れた人の会話内容である、“自分の考えを話すこと”だと定義しています。

他の人からは聞けない、オリジナリティがあって中身が伴う会話ができれば、この人の話をもっと聞いてみたい!となりますよね。人気のあるYoutuberの話を聞いてみると、やはりその人独自の考えを話していることに気づかされます。ぜひ、自分の考えを世の中に発信していきましょう。

それともう一つ大切なことがあります。優れた人の会話は、自分の会話を一方的に話すだけではなく、人の話に耳を傾ける傾聴を大事にしています。顔には口が1つ、耳が2つありますよね。「耳が2つあるのは、自分が話すことよりも、相手の話を2倍聞かなければいけないということなんだよ」と、以前教えてもらったことがあります。相手に会話を譲り、気分よく話をさせることができる人は、紛れもなく上手な話者ですね。

コミュニケーション3.0

さて、いよいよコミュニケーション3.0です。コミュニケーション2.0ができていれば十分ではあるのですが、今回はさらにそこを飛び越えます。

王様や権力を握るパトロンを魅了したダ・ヴィンチの会話法は、まさに人の心を引きつけ、動かしてしまう魔法です。その魔法の正体は、ズバリ2つで構成されています。「共感コミュニケーション」「驚嘆コミュニケーション」の2つ。以下はダ・ヴィンチの言葉です。

「人の話を聞く以外の方法で、その人が何を好んでいるかを知ろうと思うなら、いろいろと話題を変えて話すといい。その人があくびをしたり、嫌な顔をせず、じっと注目しているのであれば、間違いなくそれこそが相手の好む話題だ。」
(※出典:『パリ手稿G』)

相手はどんなことが好きなのか、まず興味を引くテーマを見つけるべく、会話をしながら探るという方法。そして共感してもらえる土台を作ります。相手が興味のない話をしても、右から左に抜けてしまって頭に入ってきません。そのため、相手が聞きたい話題を見つけることが先決ですが、これには豊富な話題を持っていることが条件となります。

そして、もう1つの魔法である「驚嘆コミュニケーション」とは、いわゆる意図的にサプライズを仕掛けることをいいます。ヴァザーリはこんなダ・ヴィンチの奇行を記しています。

「ベルヴェデーレ宮殿の葡萄園の園長が見つけた奇怪な形をしたトカゲの背中に、別のトカゲの剥いだ鱗皮を水銀の混ぜもので付け、それが歩いて動くにつれて揺れるように細工した。そして目や角、髭を付け、飼いならして箱に入れ、友人たちに見せると、誰もが恐ろしさのあまり逃げ出すのだった。」

このエピソードは本当かどうかわかりませんが、他にも目を疑うような奇行が書かれていますし、実際ダ・ヴィンチのノートにも人を驚かせる発明や、謎の文章が散見されます。

平凡な日常をぶち破るような刺激的なサプライズを意図的に用いる、そんな驚嘆コミュニケーションができれば、必ず人の心に残ります。ぜひ、意識して実践してみましょう。

とはいえ、どんなサプライズをすればいいのか思いつかない、という方もいると思うので、次回は具体的な驚嘆コミュニケーションの事例をご紹介いたします。お楽しみに!


共感と驚嘆の2つを使いこなせば無敵だ!

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2021年 1月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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