レオナルド・ダ・ヴィンチ、ベジタリアン説
今から500年前のイタリア、ルネサンス時代に活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチ。万能の天才と言われる彼はどんな食生活を送っていたのか、興味はありませんか? レオナルド・ダ・ヴィンチが好きだった料理はなんだったのでしょうか。
早速、ダ・ヴィンチの食生活から学んでいきましょう。
「自然は人が満足できるだけの素朴な食材を、じゅうぶん生み出してはいないか? また、それで飽き足らなければ、プラーティナをはじめとする料理研究家が書いているように、そうした食材を組み合わせ、さまざまなメニューを作り出せはしまいか?」
これは、ダ・ヴィンチがノートに記載した文章ですが、ここに書かれている食材は主に野菜を意味していると指摘されています。実は、この文章がダ・ヴィンチが菜食主義者だった根拠の一つになっています。ところが、ダ・ヴィンチのノートには、肉と書かれたメモも残っています。
たとえば、ある月曜日の買い物メモには、
肉
ワイン
麦ぬか
葉野菜
オレンジ
パン
とあります。
これだけ見ると、「菜食主義者だと果たして言えるのか?」ともなります。しかしダ・ヴィンチは晩年に菜食主義者になったと言われており、また自身の工房にいる弟子たちの分の食材も購入していたので、自分は食べずとも他の人のために肉を購入していたのかもしれません。
火曜日の買い物メモを見てみると、やはり葉野菜と出てくるので、毎日の日課のように野菜を食べていたのでしょう。ところで、1日どれくらいの分量の野菜を食べればいいのか知っていますか? 厚生労働省のサイトでは、1日350g以上食べることが推奨されています。350gをわかりやすくいうと、どんぶり一杯に山盛りの分量です。日頃振り返ってみると野菜が不足しているな、と感じる人も多いのではないでしょうか。
世界で最初の料理本、知っていますか?
冒頭に引用したダ・ヴィンチの言葉の中に、プラーティナという料理研究家が紹介されていました。プラーティナは、『真摯な喜びと健康について』という料理本を書いたのですが、印刷されて世に広く出回った料理本としては世界初となりました。
しかも、元々ラテン語で書かれた本でしたが、後にイタリア語、ドイツ語、フランス語に翻訳され、ヨーロッパにおける料理術発展の土台となったと言われています。料理本としては史上初となる大ベストセラーにもなったのです。
このプラーティナの本をダ・ヴィンチも読んでいたのですが、実はただ単に料理について解説されていただけではありません。まずプラーティナは、同時代に活躍した名料理人であるマルティーノを賛美し、マルティーノのレシピを借用しています。
そして、優れたレシピの引用だけではなく、ローマの博物学者でダ・ヴィンチも愛読していたプリニウスの『博物誌』という本からの知識も引用しています。これは、プラーティナが人文学者であるという気質も影響しています。『博物誌』からは、ダ・ヴィンチが好きそうである秘伝の話、たとえば、「砂糖を薬に使った古代の人々」「ローマの執政官たちと対話した雄鶏」「亀の甲羅で作った船で紅海を渡った男たち」など、ちょっと信じられないような内容も含まれています。
さらに、実生活に役立つ情報や医療上の助言、歴史の教訓なども網羅しています。ダ・ヴィンチも大いに刺激を受けたであろうプラーティナの本がベストセラーになったのもうなずけますね。
ダ・ヴィンチのワインの摂り方は、現在の厚労省が推奨するものであった
さて、話を元に戻しましょう。ダ・ヴィンチが他に好んでいた食べ物、それは果物です。先ほどの買い物メモにも、オレンジが出てきていましたが、他にもメロン、イチジク、ブドウ、ベリー類を食べていたようです。
中でも、最も注目したのがブドウ。というのは、ダ・ヴィンチが大作名画『最期の晩餐』を描き終えた後、パトロンであったミラノの統治者、ルドヴィコ・スフォルツァからぶどう園の土地をもらっているからです。このことをきっかけに、ダ・ヴィンチはブドウ作りにも精を出しました。どうしたら美味しいブドウができるかを考え試行錯誤をしていたのです。
ブドウから作られるのがワイン。このワインもダ・ヴィンチは毎日のように飲んでいましたが、少量を飲むことを心がけていました。厚生労働省が推進する国民健康づくり運動「健康日本21」の「節度ある適度な飲酒」では、1日平均で純アルコールの摂取量は約20g程度とされています。ワイングラスに換算すると、1杯半が適量。ダ・ヴィンチのワインの飲み方はまさに、厚労省の推奨するものだったといえるでしょう。
ワインといえば、ポリフェノールが豊富。ポリフェノールには抗酸化作用があり、健康やアンチエイジングにも効果が期待されます。コロナ禍で何かとストレスを抱えている方もいると思いますが、ストレスで健康を害さないためにもぜひ抗酸化作用のある食べ物を摂取しましょう。
天才が食べていた意外な食べ物
他に、ダ・ヴィンチは何を食べていたのでしょうか。ノートには何度か「とうもろこし」と出てきます。しかも、白とうもろこし、赤とうもろこし、と品種違いのとうもろこしが登場しています。とうもろこしがヨーロッパで食べられるようになったのは、ちょうどダ・ヴィンチが生きていたルネサンス時代なので、新奇な食べ物として見えていたのかもしれません。
他には、「ウナギ」という言葉が書かれてあります。実は『最後の晩餐』のお皿には、ウナギ料理が描かれています。絵を描くために購入したのかはわからないので、普段から食べていたのかもしれませんが。ウナギというワードが出てきて、500年前からウナギが食べられていたのかとちょっと驚きました。
そして、ダ・ヴィンチが67歳で亡くなる直前にノートに記してあった言葉、それが「スープが冷めてしまわないうちに」でした。
このスープはイタリアの野菜スープとして知られるミネストローネだったかもしれませんが、ぬるいスープよりも温かいスープのほうがおいしく感じられますよね。
おいしいものを、おいしいうちに頂く。それも大切なことだと気づかされます。ぜひダ・ヴィンチに学んで、食生活を見直すきっかけになれば幸いです。
旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン 2021年 9月 公式掲載原稿
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)