ダ・ヴィンチのデッサン「クマの頭部の素描画」などの絵画が、世界一高く売れる理由

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パロディ作品なのに22億円以上の値段がついた…

最近、レオナルド・ダ・ヴィンチ関係の話題に世界が注目しています。それは、何かというと、ダ・ヴィンチが描いた7センチ四方の小さなクマの頭部の素描画(デッサンの絵)が、7月のロンドンのオークションで、約13億4千万円で落札されたことです。これは、ダ・ヴィンチのスケッチ作品としては、最高額となります。

このクマの素描(デッサン)は、1860年にも落札された経緯がありますが、その時の落札額はわずか5万円程度。つまり最近の落札で、2万6800倍の価値に急上昇したことになります。クマの頭のスケッチだけで13億円というのにはびっくりですよね。

それから6月には、もう1つ別のオークションがありました。ルーヴル美術館にあるものとは全く別の『モナ・リザ』の絵です。こちらはクマの素描画よりも驚かされます。なぜかというと、明らかにレオナルド・ダ・ヴィンチの作品ではないと指摘された作者不明の複製画なのに、約3億8000万円という前例のない価格で落札されたからです。

ダ・ヴィンチの死後、100年ほど経過していると考えられていることから、ダ・ヴィンチの弟子が描いたものでもなさそうなのです。となると、『モナ・リザ』に興味を持ったどこの誰とも分からない無名画家、もしくは画家ではない人が描いた作品かもしれません。それなのに億を超える価値がつくのは不思議なことではないでしょうか。

ちなみに2013年には、香港で開催されたサザビーズのオークションで、中国人画家が描いた『最後の晩餐』のパロディ作品が、約22億6000万円で落札されています。それまでのアジアの現代アートとしての最高額は、村上隆の約16億5000万円の彫刻作品だったので、大きく更新したことになります。

この作品は、キリストと12使徒を赤いネクタイを締めた共産主義の若者に見立て、裏切者のユダは西洋風の黄色いネクタイを着けて中国の資本主義化を象徴しています。風刺的なアイディア作品ではありますが、ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』をベースにしていなければ、これほどの高値はついていなかったでしょう。

世界一高い額で落札された絵画とは?

オークション史上、世界一高額で落札された絵画があります。それはレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされる『サルバトール・ムンディ』です。

日本語だと「救世主」という意味となる絵画ですが、2017年のニューヨークのオークションで、約508億円というずば抜けて高い金額で落札されています。それまでの最高額は、ピカソの約220億円で落札された『アルジェの女たち』でしたので2倍以上の価格です。

『サルバトール・ムンディ』

実はこの絵も、先ほどのクマの頭部のスケッチのように、最初から高額で落札されていたわけではありません。1958年のオークションでは、ダ・ヴィンチの弟子であるボルトラッフィオ作と見なされており、また現在のような修復もされていなかったため、二束三文でした。

しかし修復後、科学的な調査や研究者の考察がされたところ、ダ・ヴィンチの真筆であるという評価がされます(真筆を認めない研究者もいますが)。

最終的に、サウジアラビアのムハンマド・サルマン皇太子が購入し、ルーヴル美術館の別館であるルーヴル・アブダビに所蔵が予定されていました。“男性版モナ・リザ”と呼ばれる『サルバトール・ムンディ』は、ルーヴル・アブダビの目玉作品として、観光客の注意を引きたかったはずです。でもどういうわけか、現在この絵画が行方不明となっています。一説には、皇太子の船の中にあると噂されています。

ルーヴル・アブダビ内部

さて、オークション前後の経緯の説明が必要でしたので、余談が長くなりましたが、本題に入りたいと思います。ダ・ヴィンチ作品が、なぜこれほどまでに世界一の名作として注目を浴びるのか。

その理由の1つは、“希少性”にあります。たとえば、ピカソは生涯1000枚以上の絵画を描きましたが、ダ・ヴィンチは10数枚の絵画しか残していません。

しかも、ほとんど多くの絵画は美術館や由緒ある施設に所蔵されていますので、オークションに出回ることは稀。そのため、『サルバトール・ムンディ』には、“ラスト・ダ・ヴィンチ”というキャッチコピーがつけられ、もう生涯でダ・ヴィンチの作品を購入できるのは最後かもしれないと落札者たちに思わせ、結果的に過去最高額がついたのではないかと思います。

『サルバトール・ムンディ』が頂点ということがコレクターの間でも話題になり、その後のクマの頭部のスケッチや、誰が描いたのか分からない複製画の『モナ・リザ』にも波及し、桁外れの落札額になったのではないかと想像します。

1番と2番の知名度は雲泥の差。ニッチな分野でもいいから、No.1を狙え!

ここから私たちが学べることは、希少性は購買欲を高め、そして何かの分野でトップをとると、二次的・三次的波及が予想だにしない状態になるということです。

日本一高い山といえば、富士山は誰でも知っていますが、2番目に高い北岳のことはほとんど知られていません。高さの違いは600Mとそこまで変わらないわけですが、1番か2番かでは雲泥の差があるのです。

オンリー1を目指すこともいいですが、もし狙えるのであればニッチでもいいので、その分野ナンバー1を目指してみましょう。

さて、次回は別の切り口から、ダ・ヴィンチ絵画に秘められた価値について考察してみたいと思います。お楽しみに!

何でもいいから、No.1になれることは何だろう?

旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン    2021年 7月 公式掲載原稿 
現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/) 

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