初来日する「美しきフェロ二エール」とは?

「美しきフェロ二エール」という作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた女性の肖像画です。
ダ・ヴィンチの作品は、真筆と認められる作品はわずか15枚程度しかなく、そのうちの1枚が「美しきフェロ二エール」。作品名としては、『ラ・ベル・フェロ二エール』と呼ばれています。
『ラ・ベル・フェロ二エール』は、他のダ・ヴィンチ作の肖像画と同じ材質の板絵であったり、ダ・ヴィンチの技法が使用されていること、そのクオリティの高さから、真筆であることにはほとんど異論がありません。
この“フェロ二エール”とは何なのかというと、描かれた女性の名前ではありません。
当時、イタリアのミラノで流行っていた紐のことを意味していて、額につけている紐飾りを象徴して名付けられたという説が有力です。フランス王フランソワ1世の愛人フェロン夫人の名前からとって命名された装飾品が、フェロニエールという言葉の由来になっているそうです。
服装を見れば、当時の人たちがどのようなファッションを楽しんでいたかがわかって面白いですね。
『ラ・ベル・フェロ二エール』のモデルは誰?
フェロニエールが人名でないとすると、気になるのがダ・ヴィンチは一体誰を描いたのか?ということです。
このモデルにはいくつかの説があります。
中でも有力視されているのは、当時ミラノを支配していた君主イル・モーロの寵愛を受けていた愛人のルクレツィア・クリヴェッリではないかと言われています。
ダ・ヴィンチのミラノ時代に描かれた別の女性の肖像画に、『白貂を抱く貴婦人』という作品があります。

こちらもイル・モールのお気に入りの愛人であるチェチリア・ガッレラーニが描かれていることから、『ラ・ベル・フェロ二エール』も、同じく愛人のルクレツィア・クリヴェッリであると推察されているのです。
イル・モーロは、残忍な君主として知られていましたが、ダ・ヴィンチのことを多彩な才能の持ち主と尊敬していてパトロンになっていました。そんな信頼を寄せるダ・ヴィンチに、絵を描かせたのは自然な流れだったのではないでしょうか。
『ラ・ベル・フェロ二エール』はどこにある?
『ラ・ベル・フェロ二エール』は、フランスのパリ、ルーヴル美術館に所蔵されています。

ルーヴル美術館には、他にもレオナルド・ダ・ヴィンチの作品があり、
世界でも最も有名な絵画である『モナ・リザ』をはじめ、『洗礼者ヨハネ』、『岩窟の聖母』、『聖アンナと聖母子』と、
真筆の15枚中5枚がルーヴル美術館にあります。
『ラ・ベル・フェロ二エール』は、『モナ・リザ』よりも前に描かれた肖像画で、制作の年代は1490~1495年と推定されています。
クルミ材に油彩で描かれており、サイズは63×45cmと、比較的小さめの作品です。
『ラ・ベル・フェロ二エール』の来歴
2026年9月9日(水)〜12月13日(日)まで、「ルーヴル美術館展 ルネサンス」という展覧会で日本に初来日する予定の『ラ・ベル・フェロ二エール』ですが、ルーヴル美術館のダ・ヴィンチ作品が来日するのは1974年の「モナ・リザ展」以来の52年ぶりだといいます。
「モナ・リザ展」は、150万人以上の来場者が押し寄せて日本中が注目する展覧会となりましたが、『ラ・ベル・フェロ二エール』の来日も多くの方が鑑賞しに行くことでしょう。
次に、『ラ・ベル・フェロ二エール』の来歴をみていきたいと思います。
レオナルド・ダ・ヴィンチの没後、この絵はパトロンであったフランソワ1世のフォンテーヌブロー宮殿にあったことがわかっています。その後、ルイ14世のコレクションとなり、1692年にヴェルサイユ宮殿に移っています。その後19世紀には、ルーヴル美術館に所蔵されています。
王室に愛されてきた貴重なコレクションであることがわかります。
『ラ・ベル・フェロニエール』と『モナ・リザ』との共有点や差異
『ラ・ベル・フェロ二エール』と『モナ・リザ』には何か共通点や違いがあるのでしょうか?

『モナ・リザ』ではダ・ヴィンチならではの技法が用いられていますが、中でも有名な「スフマート」という技法が用いられています。「スフマート」は煙のようなぼかしを表現する技法ですが、ダ・ヴィンチは輪郭線をハッキリ描かず、指を使って輪郭線をぼやかして描いていました。
『ラ・ベル・フェロ二エール』にも部分的にですが、胸と衣服との間に見られるかすかなにじみや、左肩の陰影などに用いられています。
別の技法でいうと、光学に基づく描写がなされています。ドレスの真紅の赤色が、左頬の下側に反射光と共に映り込んでいて、リアルな描写に情熱を燃やした痕跡が見てとれるのです。
他にも共通点があります。
それは人物の構図です。
『ラ・ベル・フェロ二エール』と『モナ・リザ』、両方とも人物の体の向きと視線が同じです。

体の方向に目線を投げかけると、視線は外に行ってしまいますが、姿勢を変えて鑑賞者の方を射抜くように見ています。『ラ・ベル・フェロ二エール』は、特に鋭い眼力が感じられ、目で何かを訴えかけているように感じられます。このように体と視線の向きを変えることで、ダ・ヴィンチは人物描写に静かながら躍動感を与えています。
もう1つ、共通点を挙げたいと思います。
それは、シンプルな服装です。
『ラ・ベル・フェロ二エール』は髪飾りやネックレスをしているものの、その装飾は至って控えめです。
同時代の画家、ラファエロが『モナ・リザ』を模写して描いた女性肖像画と比較してみると、その差は明らかです。

宝石が目立つネックレスや指輪できらびやかな印象です。
ダ・ヴィンチが質素な服装や装飾にこだわったのには理由があります。それは装飾によって人間本来の美しさがかすんでしまうからと考えたからでした。女性のナチュラルに輝く美しさを見てもらいたかったのです。
一方、この2枚の絵画の異なる点は、背景です。
『ラ・ベル・フェロ二エール』は背景が真っ暗なのに対し、『モナ・リザ』は大自然の中にいます。
『ラ・ベル・フェロ二エール』は完全な真っ暗かというとそうではなく、
手前に手すりが見えます。この手すりがあることによって、より遠近感があるように工夫されているのです。
「ルーヴル美術館展 ルネサンス」
『ラ・ベル・フェロ二エール』が展示される「ルーヴル美術館展 ルネサンス」の情報を記載しておきます。
時:2026年9月9日(水)〜12月13日(日)
場:国立新美術館 〒106-8558 東京都港区六本木7丁目22−2
アクセス:
・東京メトロ千代田線乃木坂駅青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
・都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
・東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分
ご興味を持たれた方は、ぜひ、貴重なダ・ヴィンチ作品を生で鑑賞しに行きましょう。
★ レオナルド・ダ・ヴィンチ3大作品(モナ・リザ、最後の晩餐、ウィトルウィウス的人体図)の解説はこちら ↓↓↓



★ レオナルド・ダ・ヴィンチの直筆ノートに残された万能の天才の名言と思考法についてまとめた本 ↓↓↓